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「それじゃいくぞ」
エンジンがかかる。等間隔で鳴る重低音と振動。一度大きな音が鳴ると同時に飛行機が動き始めた。
飛行機は地面から無事浮き上がり、地面から離れていく。
雲を突き抜けた頃には、窓に霜が張り始めた。私は高山病の心配はないが、体内に備えられた高度計がエラーを吐くほどの高度まで来ていた。
「頭痛やふらつきはないか?」
その上昇速度はゆっくりで、空調がしっかりしているからか、飛行機の中の気圧は安定していた。
「大丈夫だと思います。気圧も安定してます」
「そうか、それはなによりだ。ここからが本番だからな」
急激に身体が斜め下に引っ張られる。急上昇し始めたらしい。
前方、向かう先には分厚い雲の層がある。ツキの話によると、それはただの水蒸気ではなく、エデンの園を守る城壁のような役割もあるらしい。
これを無理矢理突き破るには相当な勢いが必要なようだ。
機体が揺れて悲鳴を上げ始めたころ、窓一面の白い景色が青一色に変わった。どうやら雲の壁を抜けたらしい。
「よしっ! 抜けたぞ!」
ウィンの喜びの声。広がった青い空の中、唯一青くないものがあった。宙に浮かぶ巨大な空島だ。
楕円の形に広がっており、その大きさは飛行機から見下ろしても逆側の端が見えない。
島の端からは蔓が垂れ下がり、中の町を守るように壁が建てられていた。
宙に浮かぶ地面の下には、恒常のようなプロペラはない。理では理解出来ないナニカで動いているのは確かだろう。
「それじゃ、俺はここで待ってっから」
空島の端に飛行機を停めると、ウィンは操縦席のリクライニングを倒して目を瞑った。エデンの園には興味がないらしい。
「なるべく早く戻りますね」
ひらひらと手を振るウィンの横を降りる。
ウィンは上手く停めてくれたらしい。降りてすぐのところに中へ入るための扉があった。
堅牢に作られた鉄の扉だ。所々に茶色い錆が出ている。ノッカーのようなものと、ノブがあり鍵はかかっていないのか、甲高い音を鳴らしながら扉は開いた。
薄暗い路地裏だ。何層にも重ねられた建物によって青空がほとんど見えない。
周囲の建物からは、人が出てきている様子はないが、中でこちらを警戒している気配が幾重もある。
「どうやら、あまり歓迎はされてなさそうですね」
「こんなものよ。それよりタイヨウはどこ? ここに居るのよね」
「そうですね。発信先はこっちです」
人気のない路地裏を、さらに進む。その方向は大通りではなく、むしろより鬱蒼とした路地だ。
「ここから、出ていますね」
そこには小さな空き地と掘立て小屋だ。トタンの屋根は錆びついていて、周囲には雑草が鬱蒼と茂っていた。所々が腐食した壁は、もはや家という体裁を取るのとギリギリだろう。
「こんな場所に?」
「入ってみましょうか」
私はドアノブの取れかけた扉を開けた。




