77
その図書館は、図書館というには少し、風変わりな見た目をしていた。
三角屋根に白塗りの壁。屋根の頂点には金色の十字架が輝いていた。
その見た目は図書館というより、協会のほうがしっくりとした。
「彼女はここで司書をしてるんです」
自動ドアから中に入る。冷房の効いた室内、ほんの独特な匂いが鼻腔を掠めた。
「おーい、来たぞー」
「ヘロー、そちらは?」
本を両手いっぱいに抱えて現れたのは、一対の羽が生えた眼鏡を掛けた黒髪の女性だった。その容姿は聞いていた話から衰えている様子はなく、若々しかった。
羽があることからも、まだ普通の天使のままなのだろう。
「ツキ様と、その従者さんだ」
従者。従者?
「従者でなくセロです」
私のマスターはマスターだけだ。
「お久しぶりです。それと初めまして。ヘローの妻のフォンと申します」
フォンは手に持った書類を置き、ぺこりとお辞儀をした。
「それで、どういった御用で?」
「あぁ、ツキ様がまたエデンの園に行きたいらしくて菜、その為にウィンにあの機体を修理させてるんだ」
「えぇ? あのこの町に戻る直前に墜落した機体? 私が抱えてゆっくり降りなかったら全員死んでたあの?」
フォンは一言一言詰め寄ると、それにヘローはまた気まずそうに後ずさる。
「それは、でも今度こそ! あいつも成長したしの」
さっきまであんなに渋っていたというのに、なんという手のひらを反す速さだ。
「私らは挨拶に来ただけだ。できるまでは適当にどこかに泊まるさ」
「そうはいきません。我が家でおもてなしさせていただきます。ただ、今は生憎仕事中ですので、適当に掛けててください」
蔵書に珍しいものはない。何処にでもある、安牌な本ばかりだ。
「あの、奥様は天使のままなのですか?」
ともに堕ちたと言うからてっきり歳の召した女性かと思ったが、その容姿は話に聞いていた姿と変わらない。
天使は歳をとることはない。寿命という概念が存在しないからだ。
「えぇ、彼女は私に着いてきてくれただけで、戻る手段さえあれば、いつでも帰れます」
ヘローは私たちに向き合っていう。
「そこでツキ様にお願いです。彼女をエデンの園に帰らせてあげて欲しいのです」
ヘローは頭を下げて話を続けた。
「見ての通り、私はもう長くありません。ヘローは飛行機を運転は出来ません。この機会を逃せば、彼女はここで一生暮らしていくことになるでしょう。何人もの子孫を見送る枷を、私は掛けたくないのです。なにより、私の死に目に合わせるのが忍びない……」
「とのことだが、どうする?」
ツキ様はいつの間にか私たちの後ろに立っていたファンに聞くと、彼女は微笑みながら口を開いた。




