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「あれはあの時代だから入手できたもの。それに、今の私じゃ無理ね」
ツキの身体はあの頃の十分の一の力もない。実力で狩ってくるのは不可能だ。
「それじゃあ、エデンには行けないってことですか?」
「そう焦るでない」
ヘローはまるで子供に言い聞かせるように、いたって冷静にいう。
「幸いまだあの時の残りがある。それを持ってこよう」
ヘローがガレージの奥に置かれた大きな棚を漁ると、私ですら見たことのないようなものが沢山出てきた。
「爺さん!」
棚からポイポイと、放るように取り出すヘローにウィンが慌てて近づいた。
「んな貴重なもん、放るんじゃねぇよ。駄目になったらどうすんだ」
「材料もある。そこのウィンも直せると言っておるぞ。結局どっちなんだ」
「いや……こいつにはまだ」
「いい加減にしてくれよ爺さん」
ヘローが辟易としかし、どこか悲しげにいう。
「俺はもう、一人前だ。爺さんの昔話の奴らと同じ。いや、それ以上に成った。俺に任せてくれよ」
「うむ、しかし……」
「ヘロー。やらせてやりなさい」
ツキの芯の通った声。高音で鼓膜を響かせるフルートのような響きだ。
「子に任せるのもまた、親の役目」
「しかし、もし失敗したら」
「そのときに、お主が助けてやればよい。そのときは私もセロもいる」
「……分かりました。ツキ様がそこまで仰るなら」
そこでヘローはウィンに向き直った。
「ウィン。失敗は許されないぞ」
「任せろ。当たり前だ」
ウィンは力強く頷いて工場に戻った。
その後連れてきたのは、この工場の主力らしき三人の青年だった。
全員人間だ。その背中に翼はない。その表情は自信に満ちており、なんとも頼もしい。
「おぉ、これが」
「本当に実在したんだな」
やはり職人の性なのだろう。私たちへの挨拶もせず、全員が全員、そのボロボロの機体に釘付けだ。
「お前ら! まずは客に挨拶しろ!」
ウィンの怒声に、慌てて職人たちが挨拶に来た。名前をクウ、ソラ、テンとそれぞれ名乗った。
「お前ら! 大仕事だ! 行くぞ!」
「「「おう!」」」
ツキとはまた違った、地面を滑るような重低音。彼らはウィンの指示でて素早く動き始めた。
「クウはエンジン取り出して、パーツの交換」
返事をしたクウがボンネットを開ける。
「ソラは機体の修理、テンは俺と来い」
それぞれが動いているが、流石にすぐできることはない。
「どのくらいで完成する?」
ガレージから出ていくウィンを止めた。
「そうっすね。一週間あれば。それまでは爺さん婆さんの相手でもしててくれますか?」
「お婆さんというと」
「私の妻です。会いに行きますか? 今なら図書館にいると思いますよ」
「そうね。久しぶりに会おうかしら」
私たちはまたウィンの運転で、町にある図書館へと向かうことにした。




