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「なんですか。もう。というか、一度行ったならその機体でもう一度行けばいいんじゃないですか?」
「そうは言ってもね。だいぶ前の機体だし、もう使い物にならんのよ」
「それなら、その者たちに直させればよかろう。我の渡した素材はこの程度の歳月で駄目になるもんではないぞ」
「あ~……」
ヘローは気まずそうに、ウィンを見た。
「生憎、今ここにあれをどうにかできる職人は居らんのじゃ」
「この規模の工場で、ですか?」
工場内で働く人を見ても、決して腕が悪いようには見えない。当然、我が主に匹敵するほどではない。しかし人間の中でいえば上澄みだろう。
「だいぶ良い職人のように見えますが。それにこの島も素晴らしい技術です」
ここまで、話を聞いていても、一切の揺れはなかった。まるで地上に居るときと変わらない。言われなければ気づかないほどだ。
「ここまで精巧な技術があれば十分なように感じますが」
「ふむ、実際に見てもらうのが早いかもしれません。ウィンも良い機会だ。見ておきなさい」
ヘローに連れていかれたのは、工場の最奥。厳重に鍵のされた大きな門の前だった。
ヘローはポケットから鉄で出来た手のひらサイズの鍵を錠前に刺すと、門を開けた。
中からはひんやりとした空気が流れ、埃が舞う。
今日場内から差し込む光で舞った埃がキラキラと星のように光る。そんな光彩のなかで、それは鎮座していた。
ガレージのような部屋の中心にあったのは、小さなプロペラ機。
その機体は錆びに塗れ、プロペラは欠けて、ガラスにはヒビが入っていた。
こんな状態だが、私の目はその機体が確かに伝説的な素材で作られているのが分かった。これを修理できれば確かにエデンの園まで行けるだろう。
「このような状態でして」
「マジであるのかよ」
ウィンが機体に近づく。あんな態度でも職人の端くれなのだろう。その眼は真剣に機体の状態を見ていた。
「機体の状態も酷い。エンジンまでイカれてる。部品も何個か交換しないとだな」
機体を開くその姿は、もう一端以上の職人だ。
「爺さん。これくらいなら部品さえあればどうにかなるぞ」
エデンとまでに行けるかは別だがな。と付け加えるウィン。
「そこが問題なんじゃ。お主も分かるじゃろ。この機体に使われているものは全て珍しいを通り越した物ばかり」
「でも、それを集めたのもツキ様ですよね? だったらまたそこから持って来れば」
「無理ね」
私の提案は、ツキ張本人にさらりと否定されてしまった。




