07
「それでは、時間になりましたので、改めまして自己紹介を」
タイヨウの後に入って来たのは、結局ぬえ一人だった。
烏色が封印された扉の前に立つ。
「第二代目住職、烏色と申します。どうぞ、お見知りおきをお願いします」
ゆったりとした口調。
最後だけ、少し早くなるそのしゃべり方は、なんとも独特だ。
「まずは、私を真似て合掌してみましょう」
烏色は手をこれまたゆったりとした動作で合わせた。
「背筋を伸ばして、手をぴったりと合わせてください。……そうです。そうしましたら、顎を引いて、深呼吸して目をつむってください」
タイヨウは言われたまま、目をつむった。
「家族、友人、この世に生まれたことへ感謝をしましょう」
鈴の音が一度なり、部屋全体が尾を引くように静かになった。
――――――――
「――はい。目を開けてください」
もう一度鳴った鈴の音と共に目を開けた。
ただの動作なのに、不思議と心に響くのは、烏色の話し方のせいだろうか。
「本日は、わが宗派についてお話をさせていただこうと思います。この寺は非常に高いものとなっておりますのは、皆さん外から来た時にお分かりでしょうが、そもそも五重塔とはなにかご存じでしょうか」
烏色はタイヨウとぬえに交互に視線をかわす。
「五重塔はその名のとおり、五重にかさなる屋根から来ております。下から基礎、塔身、笠、請花、宝珠からなっており、これを五大思想と合わせております」
一秒にも満たない沈黙。
それだけでタイヨウは身を引き締められた。
もう、ここは完全に烏色のフィールドだ。
細かな動作から、すべてを見透かされているような気持ちになった。
「しかし、これはあくまで建築における意味。実際の建築理由と、ここまでの高さになった理由は別にあります。それは仏舎利の保管です」
烏色は一歩横にズレた。
後ろに見えるのはしめ縄の巻かれた扉。
所々に張られたお札も合わさって、なんとも不気味だ。
「この奥にありますのは、先代住職の仏舎利になります」
「ねぇ、仏舎利って何?」
タイヨウは小声でツキに聞いた。
「僧侶の遺骨、みたいなものよ」
「へぇ」
死んだ人の骨を祭っているというのは、タイヨウにはひどく不気味に感じた。
「しかし! 先代は仏舎利になっても、この世への未練を断ち切ることはできませんでした」
突然の張った声に、体が跳ねた。
この心臓に悪い抑揚がタイヨウの心を乱す。
「私以外のすべての僧は、先代の怨念。影法師に殺されました。この五重塔が長いのは、影法師を封印するためなのです。最初に鳥居をくぐったとき、不思議に思いませんでしたか?」
タイヨウはその質問に首をひねる。
「どういうこと?」
「鳥居は神道。仏教とは別のものなの」
「もはや仏教だけの力ではこの影法師を抑えることはできませんでした。そこで、私は古今東西、様々な封印の為のものや行為を集め、それを施した部屋を積み上げていったのです」
「……ねぇ、僕にもわかる様に説明してよ」
宗教の事なんて知らない。
タイヨウからしたら、もはや烏色の言ってることは呪文だ。
「これは失礼しました。強力な力を持つ悪いやつを、色々な仏さまや神様に助けてもらって抑えているんですよ。そこでですね。そちらのツキさんにも手伝っていただきたいことがありまして」
壇上から足音も鳴らさず降りてきた烏色はそう言って笑った。




