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「ヘローの運転。久しぶりね」
私の心配などいざ知らず、ツキは楽しそうにしていた。
「お任せ下さい。安心運転で参ります」
ヘローが腕をまくると、その震えはピタッと止まり飛行機のエンジンがかかった。
プロペラの回転速度が速まり、顔に吹き付ける風の勢いが強くなっていく。
「行きますよ!」
プロペラの轟音のなか、一切かき消されない鋭い声。私がヘルメットを被ると同時に、飛行機は動きはじめ宙へと浮かんだ。
しばらくの上昇が終わり、平行に空を飛ぶ中。吹き付ける風にも慣れてきた。
下方を覗けば、まるで迷路のように入り組んだ街並みが広がっていた。
眼下に広がるその風景は、まるでジオラマのように小さく、手でプチっとつぶせそうだ。
飛ぶ前に感じていた不安に反して、その運転技術は卓越しており、非常に安定した運転だった。
「見えてきました、あれが私たちの工場ですよ」
前方に広がる雲の中から現れたのは、いくつものプロペラで吊り下げられた浮島。
その技術力の高さはこの遠さからでも理解できた。
それは恐らく、私の主にも匹敵するほどだ。
「爺さん! なんで来たんだよ」
飛行機が到着すると同時に、翼の生えた少年が駆け寄って来た。
羽はセローと同じ隻翼で、紺色のつなぎに黒く汚れたTシャツを着ていた。
「おう、ウィン挨拶せい、ツキ様がいらっしゃったぞ」
「ツキ?」
ウィンは怪訝な表情で私たちを見る。
「この奇抜なかっこのねーちゃんがか?」
ウィンは私を指さしてヘローに食って掛かった。
私の姿はメイド姿、肩のツキ様は、ヘルメットで隠れて見えてい居なかったのか、私のペットか何かだと思ったのだろうか。
「違うわ。ツキ様はその方におられる方じゃ」
「もしかして、あの蛇がか?」
「蛇とはなんじゃ、失礼じゃぞ!」
ヘローは流れるように、ウィンの頬をひっぱたいた。
「このお方のことは何度も話したじゃろ。さっさと案内せい」
「……分かったよ。ついてこい」
ウィンは頬をさすり、私たちを睨みつつも、工場へと歩みを進めた。




