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タイヨウの反応はない。サキの生体反応ももうはるか遠くへ行ってしまい、追いかけることは物理的に不可能。
今この瞬間。タイヨウを探す手立ては完全になくなった。
「最悪よ」
そうつぶやいたツキに、セロはなにも言えなかった。
それから、ツキとタイヨウが分かれて数日が経った。
ツキはホテルに籠ってしまった。ツキの種族上、それで衰弱することはないが、それでも見ていて痛ましい。
「ツキ様。たまには出かけたりしませんか?」
セロとしては花火の為の人員さえ集まれば良かったはずだったが、旅を通して気づけばツキとタイヨウに、家族のような感情を抱いていた。
そして、そんな二人が今、大変な目に遭っているのは、好ましくない状況だった。
「嫌よ。タイヨウのいない世界に、未練なんてないのよ」
「そういえば、ツキ様とタイヨウ様は、結局どういう関係なのですか?」
「私とツキは、家族よ」
「でも血はつながってないですよね?」
「色々あるのよ」
「聞かせては、もらえないですか? 一応、長く一緒にいたつもりなのですが。それに、私はこう見えて高性能です。何か手伝えることも」
「あなたにできることはないわ」
「そうですか……」
セロがしょんぼりとすると、ツキはため息を吐きつつも、口を開いた。
タイヨウと出会ったのは、今から三千年前の、雨の日だった。
ツキは元々、とある祠に祭られた、いわゆる土地神のような存在だった。
そんなツキの祠には、様々な貢物が送られていた。
果実や米、金銀財宝などが送られていたが、物欲や食欲はなく、それらはひたすらに祠の面積を圧迫するだけだった。
しかし、その雨の日、祠に置かれていたのはそれまでにはないもの。人間の赤子だった。
生贄などではない。恐らく育てられなかった事情があったのか、神のもとに置けば安全とでも考えた者がおいていったのだろう。
当然、私には子育ての知識も、経験もなかった。
しかし、放っておいて獣に食われても目覚めが悪い。私は退屈しのぎにその赤子を育てることにした。
「それがタイヨウ様」
「そうだ」
タイヨウは存外すくすくと育った。食事や生活用品は貢物でまかない、足りない衣服は私自身が人に化け調達した。
タイヨウが立ち、私の事を「まま」と呼ぶ頃にはもう、私の中で母性のようなものが完全に根付いてしまっていた。
ある日、タイヨウが風邪に罹った。熱をだして、ぼやけた目で私を求めるタイヨウ。
幸い、すぐに医者を呼ぶことでタイヨウは一命を取り留めたが、その日から私の中でどす黒い靄が浮かび始めた。
私を母と慕い、思わず目を細めてしまうほどに輝かしい笑顔。そんな狂おしいほどに愛おしいわが子を失うのが、私は耐えられなかった。
しかし、人間と私たち神の間には障壁があった。寿命という、どうしようもない壁が。
私は、その日からその壁をどうにかする方法を探すようになった。




