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ツキが我慢ならなくなり、外に出かけたのは、タイヨウがエルを探しに出かけて数刻後に戻る。
「セロ! タイヨウはどこだ」
ツキはセロの方に乗り、その耳元で騒ぎ立てる。
「ツキ様。あまり暴れますと、お体に障りますよ」
「そんなこと、どうでもいいタイヨウはどこだ」
「少々お待ちください」
セロは、これ以上何を言ってもツキは聞かないと理解し、タイヨウの生体反応を探る。
一度認識した生物の所在は、この街の中程度の広さであればすぐにわかる。
タイヨウの生体反応はホテル街から遠く離れた街の端にあった。
それは市場があった場所だ。
「見つけました。すぐ向かいます」
セロは足に力を込めると、建物の屋根まで飛び上がった。ツキが落ちないよう細心の注意を払いながら屋根の上を跳んで向かった。
タイヨウがいるのは、あの噴水のある広場のようだ。近くに誰か別の反応もある。
これは、サキと呼ばれる、あの白い羽の女だ。
思えば、第一印象から怪しかった。
私には一切目もくれず、タイヨウ様をまるで誘惑するかのような声で話しかけていた。
あの羽は知識で知っている。天使という種族だ。
天使の人に対する感情は、人間が家畜や愛玩動物に向けるものと遜色ない。
「嫌な予感がしますね」
それは、セロが市場に到着したときに起きた。
「ツキ様。タイヨウ様の反応が消えました」
「どういうこと? 言葉には気をつけなさい」
先ほどまで確かにあったタイヨウの生体反応が、忽然と消えてしまった。
「ただ、亡くなった感じはしないです。そうですね、まるでどこか、私の探知の利かないところに消えてしまったと、言えばいいのでしょうか」
「どういうこと?」
「ひとまず、向かいます」
市場は雨が降り始めて、出店は畳まれていて、人通りは一切なかった。
セロが噴水前に着いたとき、やはりそこにタイヨウの姿はなく、代わりに有ったのは、リュックを抱きしめるサキの姿だった。
「おい、タイヨウはどうした」
「タイヨウ? タイヨウなら、ここにいるじゃない。それはあなたが一番知ってるのでなくて?」
ツキの、芯から冷えるような声にも、サキはいたって平静なトーンで答える。
リュックからは絶えず赤い液体が流れて地面を濡らしていた。
「そのリュック、返してもらうよ」
「いや。私とタイヨウはもう離れないんだから」
彼女はそう言うと、その自慢の翼で浮かぶ。
「待ちなさい!」
セロが武器を取り出す間もなく、彼女は飛び上がった。
その方角は街とは反対。彼女は、まるで鳥かごから逃げ出した鳥のように、どこか彼方へと飛んで行ってしまった。




