表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界見浪記  作者: 天空 浮世
エデンの園に堕ちた果実

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/66

59

 男は目じりの下がった優しい目をしていた。


 他の人と同様、男の背には羽があり、頭の上には輪がある。


 しかし、その羽は片翼しかない。


「とりあえず、私の診療所まで行こうか」


 連れていかれたのは、空き地のような場所に建てられた小さな掘っ立て小屋だ。


 中は予想通り狭く、ベッドがひとつに、椅子が向かい合うように置かれていた。


 家具と呼べるものはほとんどなく、他には机しかない。部屋の隅には紙束が山の様に置かれていた。


 「ごめんね、狭くて」


 僕は差し出された椅子に座る。


 背もたれのない、少し珍しい椅子だ。


「それで、どうして人間の君が一人であんなところに?」


「それが――」


 僕は、記憶をなくしたこと、気づいたときにあ、あの庭から逃げてきたことを話した。


「大きな庭って言うと、エデンの事かな。にしても記憶喪失とは、難儀だね」


 彼は僕の話を笑うことも、茶化すこともせず真摯に最後まで聞いてくれた。


「ちょっと失礼するよ」


 男はタイヨウの服をまくる。無駄な脂肪のない、筋肉質な腹部がさらされる。

 

「不思議だ。君には所有物である証の刻印がない」


 腹部には傷ひとつない。きれいな肌をしていた。


「この街には、天使が連れた刻印のある人しか入れないはずなんだけど」


 男は僕の体をまさぐる。触診のようなものなのだろうか。


 しばらくまさぐられると、男の手が僕の腰で止まった。


「これか」


 男は、ズボンのポケットに手を入れると、錆びた十字架の付いたペンダントを取り出した。


「それは?」


「このペンダントは、帰還の魔術がかけられてるね」


 彼はペンダントを眺めて言う。


「魔術?」


 聞いたことない。そもそも覚えていることなど、基本知識のみ。その基本知識すら正しいのか怪しくなったわけだが。


「そういう技術だ。この街に指定されているね。転送前の場所を探るのは不可能だね」


「そうですか……」


「それで、君の今後だけど。行く当て、ある?」


 部屋を僕は見渡す。お世辞にも豪華絢爛とはいいがたい。あのとき助けていただけただけ十分だ。

 

「えっと、どうにかします」


「どうにか? この街に人間一人いる恐ろしさは、さっき知ったと思ったんだけどね」


「それは」


 考えないようにしていたことだ。金も記憶もない人が見知らぬ土地でまともに生きる方法など、たかが知れている。


「幸い、ここに他に人が来ることは少ないし、ベッドもある」


「えっと、話がよく」


「単純な話だ。ここに住めばいい」


「良いんですか?」


 きょとんと思わず、聞き返してしまう。


「行く当てのない人を、放り出すわけないでしょう。いつまででもいたらいい」


 彼はただ優しく微笑むと、机に向かった。


 僕はただ、ぽかんと口を開いたまま椅子に座り呆けてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ