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「この、リュックのなかに?」
タイヨウは自身のリュックに手を伸ばす。
背中からリュックを下ろそうとするも、肩掛けベルトを下ろそうとするだけで鼓動が早まり、額から汗が流れる。
無意識にそれをお楚洲ことを嫌悪するほどの拒絶反応。
「はぁ、はぁ」
息が荒くなる。これを下ろしたら、自分が自分でなくなってしまうような。バンジージャンプ中に命綱を切り落としてしまうような不安感。
「どうしたの? できないなら私がやってあげるよ!」
そういってエルは思い切りリュックを引きはがした。
なにかがぶちぶちぶちっと千切れるような音。どろりと背中に跳ね飛ぶ赤い液体。
「おかえり、タイヨウ。もう離さないよ」
エルが愛おしそうにリュックを抱える横で、まるで体の電源が切れてしまったように、タイヨウの体はガクンとその場に崩れ落ちた。
――――――――――
――――目を覚ましたさきは花畑だった。そこは色とりどりの花が咲いていて、すこし遠方には大きなお屋敷もある。
見たことも行ったこともないが、天国があるならこんな場所なんだろうと、僕は思った。
周囲を見渡しても、誰かがいる様子はない。背中にズキンと刺すような痛みが走った気がしたが、その痛みもすぐに引いていった。
ここはどこだろう。僕は立ち上がると、その花畑の中を歩く。向かう先も時に分からず、なんとなく屋敷方向へと歩く。
きっとそこならだれかいるだろうと、そんな期待を込めて。
道中、少し開けた場所に出た。相変わらず花々は満開だが、その場所だけは花が咲いておらず、青々とした芝生だけが敷かれていた。
芝生の真ん中、白いカーブを描いた柵が机を覆っていた。
それはまるで巨大な鳥かごのようで、だけど決して閉塞感はなく、むしろ清涼感や爽快感が大きい。
机の上にはなにも置かれていない。かすかに落ちた花びらだけが机を占領していた。
椅子と机は柵と同じ色で、細かな装飾が入っていた。
きれいな装飾に、思わず机まで歩いて近寄るとその装飾の細かさに目を引かれる。
こんなに美しいものは初めて見た。
「あなた! 何をしているのですか?」
僕がその机に触れようとした手を慌てて引き込めた。
「ご、ごめんなさい! 僕、気づいたらここにいて」
僕を注意したのは眼鏡を付けた女性だった。
黒と白のメイド服に身を包んだ女性の背中には純白の羽が生えており、頭上には明るく発光する輪が浮かんでいた。
「あなた人間? お客様の中に人間はいないはずだし、あなた名前は?」
「僕は――」
名前……僕の名前はなんだ?




