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「ねぇ、私とタイヨウが初めて会ったのって、いつだったと思う?」
「その、あれですよね。どこかの庭先で」
「そう、天使の園にある私の家。そこで初めて会ってから、もう一度も会ってなかった。私に残ったのは、このペンダントだけ」
首もとのペンダントを開く。中にはあの時のツーショットの写真が入っていた。
もう、色あせ薄くなった色だが、それでも彼女はそれを毎日、大切に持ち歩いていた。
「……話の回答になってないんですが。僕はこうして生きてます! 記憶はないけど、それでも思い出した!」
タイヨウは必死に叫ぶ。それはエルに言っているというより、自分に言い聞かせているようだった。
ツキという絶対的な安心への不信感は、それだけタイヨウという存在を、不安定なものにしていた。
「タイヨウは、天使の園では珍しい人間だったの。羽のない普通の人」
彼女と会ったあの場所の詳細は覚えていない。だが、あの場所に羽のない人はいなかった。ましてやサキュバスも居なかった。
天使は基本、天使の園でその長い生涯を終える。他の種との交流はほとんどない。それこそ、伝説になるほどに。
タイヨウのなかに、知識が流れ込む。それは絞りカスのような記憶の中からわずかながらに残ったもの。
そんな彼女がどうしてここに。
「ねぇ、私とタイヨウが初めて会ったのは、いつだと思う?」
「いつって、幼少期ですよね?」
「そう、今から約三千年前。それが私とタイヨウの最初で最後の出会いよ」
「三千年?」
そう口にしても、やはり実感が湧かない。それもそうだ。
タイヨウの種族は人間。当然ながらそんな前から生きているとしたらとっくに――。
「だから、僕が死んでるって?」
「そう。それじゃなきゃおかしい」
「僕に似た人が……」
そう言うも、途中で言葉が詰まる。ならばタイヨウの中に残ったこの記憶は? タイヨウは確かにエルと出会っていた。
しかし、それはあり得ない過去の話。
「でも、僕は確かにここに生きている。もし、僕が、タイヨウが死んでいるとしたら、僕は一体何だっていうんだよ!」
死んでいる。など言われて動揺するなという方が無理である。ましてや記憶の抜けた自身の出自など。嫌が応にも悪い想像ばかりが脳裏をよぎる。
「そう思うなら、その背中のリュックを下ろしてみなよ。そこに答えがあるよ」




