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セロとサキが対峙する少し前。タイヨウは深淵の中でまどろんでいた。
そこは下も東も左も北も分からない。自分が今揺蕩っているのか、落ちているのか。もしかしたら昇っているのかもしれない。
まるで雲のベッドでくつろいでいるような夢見心地のなかで、タイヨウは暗闇から一転。
暗闇が切り開かれ、明るい場所に出た。
そこは庭園だった。青々とした芝生に、色とりどりの花。庭園の中心には白いカーブを描いた柵によって机を覆っていた。
それはまるで巨大な鳥かごのようで、だけど決して閉塞感はなく、むしろ清涼感や爽快感が大きい。
机の上にはティーポットがひとつ。ティーカップがふたつ置かれていた。
椅子と机は柵と同じ色で、細かな装飾が入っていた。
椅子に座っていたのはタイヨウとサキ。しかし、どちらも本来の姿より幼い。タイヨウの背中にリュックはなく、サキの羽は小さいながらも純白に光っていた。
これは――僕の記憶?
「ねぇ、紅茶美味しい?」
幼いサキがタイヨウに聞く。その顔は幼くもくりくりとした瞳に、整った顔立ちをしていた。
「うん。美味しいよ」
「良かった。これね、私が選んだんだよ! いろいろ試してね。私のお気に入りなの」
サキは紅茶を自信満々に語る。それをタイヨウは笑顔で頷きながら聞く。
「あ、ごめん。話過ぎちゃったよね」
「どうして? もっと聞きたいな」
タイヨウは笑顔で言う。それにサキはまた咲いたような笑顔を見せて話を続けた。
当然、タイヨウにこのような記憶はない。場所すら不明だ。
しかし、その場に座るタイヨウは確かにタイヨウ本人で、この目の前に広がる光景が真実だと、不思議と確信を持っていた。
「ねぇ、タイヨウは、ここに住むの?」
「ううん。また旅に出るよ」
「そっか」
サキはしゅんと顔に影を落とす。
「ねぇ、また会えるよね」
「そうだね。きっと会えるよ。そうだ」
タイヨウはポケットをまさぐる。
「……あれ? ここに入れたんだけど――あった!」
タイヨウが取り出したのはブローチの付いたネックレス。
「一緒に写真撮って、ここに入れておこうよ。このネックレスがあれば、離れてても一緒だよ」
それはサキが持っていたネックレスだ。やはり、これはただの夢ではない。タイヨウの過去の記憶に違いないものだった。
「うん……!」
サキはそれを大事そうに抱える。
サキとタイヨウがメイドらしき人に写真を撮ってもらう。
メイドの背中にもやはり羽があり、頭上には輪が浮かんでいた。
「タイヨウ。そろそろ行くよ」
写真を撮ったタイミングで、女性の凛とした声が響いた。




