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「浮島ですか?」
「そう、それに浮かんでる大きな島でね。そこには――」
「ちょっとマスタぁ、変なこと教えないでくださいよ」
バーテンの言葉を止めたのは、突然後ろから抱き着いてきた蘭だった。
その背中にはやはり、バーテンと同様羽が生えており、頭から角が生えていた。
「ちょっと、蘭。別に嘘はついてないじゃない」
「いやいや~ふっるい伝承持ってきて何言ってるんですか。今のブームはサキュバスの嬢王がタイヨウと寝てるってやつですよ」
「古いって、そっちの方がよっぽど荒唐無稽じゃない!」
嬌声を上げて逃げる蘭に引っ張られてカウンターから離れていくと、バーの中心にライトが向けられた。
パッとつけられた白色灯の中心に立つのはサキ。その背中からは黒い羽が生えていた。
「あれ」
タイヨウは不思議に思うも、言葉にはしなかった。
彼女は周囲をぐるりと見回すと、ゆっくりと礼をした。
美しい所作に、そこかしこから「おぉ」と感嘆の声が漏れる。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。引き続き、お楽しみください」
また最後に礼をしたサキが顔を上げた時、サキと目が合った気がした。
明かりが消え、また周囲がざわめきを取り戻す。
「ほら、君も楽しまないと損だよ?」
タイヨウが落ち着いたのを見計らって、蘭にテーブルまで連れて行かれた。
他に座っている人はいない。二人っきりだ。
バーカウンターよりはるかに暗く、隣に座った蘭の顔がかすかに見えるだけだ。
「ほら、これ持ってきたから」
蘭からグラスを渡される。なんの飲み物か暗くて分からない。
「あの、僕お酒は」
「大丈夫、ノンアルだよぉ?」
「そうですか……」
横からほぼゼロ距離で見つめてくる蘭にじゃっかんの気まずさを感じつつも飲み物に口を付けた。
口に、レモンのような酸味と、花を抜けるアルコール臭。
「あの、これアルコール」
「あれぇ? 入ってた?」
急激に頭が熱くなってくる。ろれつが回らない。座っているのに、体がふらふらとして、倒れそうだ。
「大丈夫? 上の宿屋で休もっかぁ」
「タイヨウ。貰ってくね」
蘭に掴まれそうなところを、横からサキがタイヨウを攫って行った。
「ちょっと! 私の獲物よぉ?」
「今日は私の誕生日なんだから。少しは融通利かせてよ」
「んもう」
「……まったく、あの女狐は」
サキは引きずる様にタイヨウを運んで屋根裏部屋まで来ると、ベッドにタイヨウを下ろした。




