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市場での収穫は結局なく、ぬえへの手掛かりはバーでの誕生日会に託された。
バーの前には門番のように、二人の女性が立っていた。
筋肉質な両腕、豊満な胸だが、どちらかというと胸筋と言った方が良いだろうか。
「招待状は持ってますか?」
招待状はおそらく昼に、サキからもらったものだろう。
タイヨウはその丸太のような腕に招待状を置いた。
他のところで見かける女性とはまた違った意味で、スタイルの良い人たちだ。
「はい、確かに」
タイヨウは招待状を返してもらい、中に入った。
その日のバーはいつもより薄暗かった。普段の若干ムーディな薄暗さとは違う、目の前も見えるかどうかのぎりぎりの視界。
若干明るいのは、バーのカウンターのみ。他の席にも人が居るのは息遣いと物音で分かるが、その造形は一切見えない。
周囲を見渡しても、サキは見当たらない。そもそも居たとしても分からない。タイヨウはバーのカウンターに向かった。
カウンターは薄暗いながらも、暖色のライトが照らされており、そこに立っているのが、いつものバーテンだと分かった。
「どうも、今日はなんだかいつもより暗いですね」
「まぁ、誕生日だからね」
「そうなんですね……ところでその、背中のは衣装ですか?」
バーテンの背中からは、黒いビニールやラテックスの様にてらてらと光る蝙蝠のような羽が生えていた。
よく見ると頭には小さな羽と同じ色の角が生えていた。
「これ? あぁ、今日は限られた人しか来ないからね」
「えっと……?」
回答になっていない回答に、タイヨウは困惑した。
「ん? なに?」
「誕生日は、僕も仮装した方が良いですか?」
セロの服はメイド服だが、タイヨウの服はいたって普通の旅人衣装。レギュレーションには合っていない。
「仮装? ……あぁ、私たちはサキュバスだよ? そんなもんじゃなくて、正真正銘本物さ」
「サキュバス? ってなんですか?」
それは、タイヨウにとって聞いたことのない種族だった。
「何って言われても、ねぇ」
「タイヨウ様。サキュバスは人の夢に潜って生気を吸うという種族です」
耳打ちしたセロの助言にタイヨウはこの街の構造に納得した。
常に暗い街、食事処より多いバーやホテル。まさにサキュバスが生きるための街だ。
ただし、それと同時に、タイヨウには疑問が生じた。
「ねぇ、サキュバスには常に夜にする力でもあるの?」
「いえ、そのようなものはないはずですが」
「ん? あぁ、それはね、この上に浮島があるからよ」
バーテンは天井を指さして言った。




