05
「いや〜感動した!」
タイヨウが立ち上がると、静かにしていたクラトスが大声を出し、その大きな腕で地面をたたく。
「おい、セウスト! もしどうしても困ったら俺を呼べ。いつでも助けになってやる」
クラトスはタイヨウにしたように、彼の頭を器用に撫でた。
「ありがとな、あんたのおかげで、俺はまた夢を追いかけられる。いつか必ずこの足でお礼に向かうとするぜ!」
恥ずかしそうにしつつも、セウストはその腕を受け入れた。
「なに、これしきのこと、いくらだってやってやるさ!」
その巨大な腕を駆動させて笑った。
腕を戻したクラトスのモニターが受話器のマークに変わり、ガラケーのような着信音が鳴り響いた。
「おっと、悪い、工事現場から呼び出しだ、またな!」
「ありがとうございました!」
電話のマークから顔にまた切り替わったクラトスは、電話に出ながら砂浜からいなくなった。
忙しいなかでわざわざここまで来てくれたのだ。
タイヨウからの感謝にその大きくて頑丈で、なにより暖かな腕を上げて答えた。
クラトスの移動による振動はもう遠ざかり、波のBGMだけが心地よく流れた。
「あんたはこの後どうするんだ?」
唐突に来たセウストからの質問に、タイヨウは少し悩んだ。
「どうしようかな、……おすすめの観光地とか、ある?」
「それを俺に聞くか? そうだな……あそこに見える永塔婆に行ってみるのはどうだ?」
セウストは対岸のほうを指さした。
それは五重の塔が何段も積み重なった天をも貫く塔。
「なんか数十年振りに、門戸を開いて説教をするらしいぞ?」
「説教? 怒られるのは嫌だなぁ」
「説教といってもあれよ。教えを説く方の説教ね」
ツキがタイヨウに耳打ちした。
「まぁ、俺はそういう教え? はよく分かんねぇが、暇なら行ってみたらどうだ?」
「ありがとう。行ってみることにするよ」
セウストに手を振られながらタイヨウは塔を目指した。
「あの塔ならこっちからね」
それは対岸へ向かったときと同じルート。
地面にはクラトスのキャタピラからこぼれた砂の跡がまだ残っていた。
「そっか、ならもしかしたらクラトスにも会えるかもね」
「そうね」
消してこれは今生の別れではない。
いつかその足で僕の元に現れるセウストを考えると、今から楽しみだ。
それまでは今しばらく、この瓶とツキとの旅を楽しむことにした。
目指すは天を貫くように建てられた塔。
タイヨウは永塔婆へと歩みを進めた。




