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「今夜? 何かあったかしら」
着いて早々に、タイヨウは昨日のバーテンに聞いた。
早朝だというのに、この町はやけに賑やかだったが、この店は不思議と静かで落ち着く。
出されたのは昨日と違い真っ赤なカクテルだった。口に含むと、トマトのような酸味が口に広がる。
「あ、そういえば。蘭ちゃーん」
バーテンに呼ばれて、テーブル席を拭いていた女性がこちらに駆けてきた。
「どうしました?」
黒のワンピースのようなデザインのシースルーを纏った女性。三白眼の瞳だが、どこか素朴な顔。バーテンとも、昨日の屋根裏の女性ともまた違った、素朴な美形だ。
黒のワンピースより、白シャツに、麦わら帽子とかが似合いそうだ。しかし、その素朴さが逆に、黒く魅了するようなワンピースによってより引き立てていた。
「今夜ってあの日だったっけ?」
「もう、マスターまた忘れたんですか? そうですよ。今日の十時半から」
十時半、書いてあった時間だ。
「今夜、何が……」
「今夜はサキちゃんの誕生日よね」
「サキちゃん?」
「そう、サキちゃん」
……誰だろうか。
「まじか~。プレゼント何にしようかな」
「それ、毎回悩んでますよね」
少なくとも、バーテンさんではないらしい。加えて、目の前の彼女も違う。
「それで、サキちゃんって、誰ですか?」
「ん? あぁ昨日会ったろ」
「昨日……彼女の名前ですか」
タイヨウは上を指さした。
「そうそう」
それは、昨日会った屋根裏の彼女の名前らしい。
「それじゃあ、これは、誕生日会の時間?」
「なんとも回りくどいお誘いですね」
セロはやれやれとため息を吐く。誕生会までまだ時間はたっぷりある。
初めて会った人を、急に誘うとは思えない。きっとそこにぬえの手掛かりがあるのだろう。にしても誕生日か――
タイヨウの記憶には誕生日を祝った記憶はない。自身の生まれた日が分からないのは少し悲しい。
「そ、れ、でぇ!」
すこし落ち込んでいると、蘭に背中から肩を組まれた。
「この、かわいいお客さんは誰ですか~? ますたぁ?」
背中に柔らかいものが当たっている。蘭さんはその素朴で奥手そうな顔のわりに、性格はぐいぐいくる人のようだ。
服装はその性格の表れだろうか。
「ん? あぁなんでもぬえってのを探してるらしいぞ」
「ぬえ?」
タイヨウは、ぬえの容姿を説明した。すると、蘭はタイヨウから離れて携帯を取り出した。
「赤い目に茶色い毛皮ねぇ。それって、これの事?」
見せられた形態の画面には、路地裏でゴミ箱を漁るぬえの姿があった。




