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「タイヨウ様は、ああいう方が好みなのですか?」
「ブフッちょ、違うから!」
ホテルに戻って、開口一番出てきた言葉に、タイヨウは思わず飲もうと口を付けた水を吹き出し、床を拭きながら猛抗議をする。
「そういうのじゃなくて、ただきれいだとは思ったけど」
「それで、紙には何が? ぬえの場所ですか?」
タイヨウは、ポケットから一枚の紙きれを取り出す。それは彼女から渡されたものだ。
あのとき、ベッドから起きた彼女は机に向かうと、一枚のメモを取り出して、タイヨウに渡した。
「それじゃ、私は行くから」
彼女はタイヨウに手を振ると、
「ちょっと、待っええ!?」
窓を開けて、飛び降りてしまった。
「あの子はこの町にいる人の夢に入って、その人の記憶の中を見ることができるの」
「いや、そんなことより、お、落ち!」
タイヨウが慌てて窓際に近寄り、下を覗くが、そこに彼女の姿はない。
「え……?」
「安心しな。私らが落下死なんて、するわけないんだから」
「え? でも、え?」
なんど下を見ても彼女の姿はない。下に入り込めそうな隙間や段差はない。まるで一瞬にして消えてしまったみたいだった。
彼女が居なくなってしまっては、もうそこに居る意味もなくなり、ホテルに戻ってきたというわけだ。
「えっと、これは……数字?」
タイヨウが開いたメモに書いてあったのは四桁の数字。
二、二、三、零。
二文字目と三文字目の間には、コロンが書かれていた。
「22:30。時間ですかね?」
セロは髪を覗いて言う。
「時間かぁ、ってことは、明日の夜? っていうか今何時?」
部屋に時計は置かれていない。外は相変わらずの常闇で、時間だと、深夜にしか見えない。
しかし、この町に来て、おそらくもう数時間は経っている。普通ならもう夜明けが始まるところだ。
「私の体内時計だと、今は朝の六時ですね」
体内時計。文字通りの意味なのだろう。アンドロイドだし。それよりも――
「朝?」
「はい。このあたりの標準時刻では」
もう一度外を見る。やはり暗いままだ。
「やっぱ、空は信用ならないね。ってことは、今日?」
「さぁ……」
セロは小さく首を傾げた。
それもそうだ。そもそも待ち合わせにしたって、なんにしたって、これじゃ情報が少なすぎる。
いったいいつのどこに行けばいいというのだ。それとも……。
「今日のその時間に、なにかあったり」
「昨日のお店で聞きましょうか」
「うん。そうだね」
タイヨウたちはまた部屋を後にした。リュックのツキは、まだ寝たままだ。




