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「かしこまりました」
セロはハサミを壁に立てかけ、スカートを掴んでお辞儀をすると、そのまま手ぶらでドリルに近づいた。
「え、な、なんで近づいてくるの! へ、ヘッダの兄貴!」
セロは外に逃げ出した少女には目もくれず、轟音で回転するドリルに近づくとドリルを思いっきり掴んだ。
「むんっ?」
ヘッダの不思議そうな声が外から聞こえる。
「っなにしてんの!?」
「なにといわれましても」
それはもう驚いたというのに、セロは何に驚いているのか分からないといわんばかりに頭を傾けた。
「それ、どうやって、ていうか危なく……」
「いえ、この程度でしたら。どうやら手加減されているようでしたので」
「そっか……なら、いいんですけど」
手加減……手加減? あの風を起こすほどの回転が?
あの速度で回転するドリルに手を突っ込んで無事なのが普通なのか?
「ヘッダの兄貴! なにしてるの! やっつけてよ!」
「んむ。まさか止められるとは。少し本気を出すとしよう」
外からエンジンの吹く音が響く。セロの掴んでいたドリルが震えだした。
「すみません。これは素手では無理そうです」
セロは吹き飛ぶようにして壁際に戻った。どうやら手加減していたのは本当のようだ。
ドリルが止まって見える。決してタイヨウの動体視力が良くなったわけではない。その回転速度が速すぎるんだ。
「それより、大丈夫ですか!?」
幸いセロの手は無傷だ。あと少しでも離れるのが遅ければ大変なことになっていたであろう。
「お前ら! 何してる!」
セウストの怒号と、バンっと鈍い衝撃音。
外で何があったのか、壁に阻まれ見えないが、ドリルが止まったことから、どうやら誤解は解けたようだ。
「すまんタイヨウたち! 出てきてくれるか?」
外に出ると目を泣き腫らした少女と、屋根が凹んだ車両。そんな二人の横でディスプレイを真っ赤に点滅させたセウストがいた。
「すまんかった! まさかこんな早く帰ってくるとは……」
「なんだ。あのときの少年か」
「あの時のって、あ」
ヘッダはセウストと初めて会った時、岩を削っていたドリルの車両と同じだ。
「覚えてたのかよ! まずは確認するだろ! 普通!」
「ま、まぁ。別に僕らも無事だし」
まだ興奮冷めやらぬセウスト。
「いんや、ダメだ! それとサルビア!」
赤毛の少女がビクンと跳ねた。
「でも兄貴!」
「でもじゃない!」
「ひぅ」
「確かに家に人が居るのは危ないが、それでも後先考えずに攻撃するのは違うだろ!」
「ごめんなさい……」
玉のような涙を流して、サルビアは頭を下げた。




