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「なんだ! アバロンに向かってんのか!」
住宅街を抜けたところでクラトスに事情を話した。
「うん。ただ食料が足りなくなってきてて、近くに売ってる場所はないかな?」
住宅がを抜けると、そこは荒野が広がっていた。時々がれきが落ちているのみで、人の文明があるようには見えなかった。
「そんなら俺の住んでるとこに来るか? あそこなら食料だってあるぞ」
「いいの?」
「もちろんだ! 俺のダチなんだ。なんの問題がある!」
「ありがとう!」
「そうと決まれば向かうぞ!」
砂埃の中、速度を上げたクラトスに乗って進むと、それは見えてきた。
錆ついた看板。ガソリンスタンドの近くには廃車が難題も積み重なっていた。
「ここが俺の会社だ! 今他のやつらは出払ってるし、どうせ使える奴もそんな居ないし、好きに使ってくれ」
食料を採りに行ってくるといなくなったクラトス。
タイヨウたちは、ガソリンスタンドの休憩所の中へ入った。
元は休憩兼サービスの受付もしていたのだろうが、受付カウンターは改造されてキッチンに、休憩スペースにはベッドが置かれていた。
「明らかに誰かの居住スペースだよね。ここ……」
「えぇ。その様ですね」
セロは壁際に立って微動だにしない。
「そういえばさっきのでっかいハサミなに?」
「こちらですか?」
セロはソーイングセットから、あのハサミを取り出した。
「そうそれ、ていうかどうやって入ってたの?」
鞄の大きさはハサミの十分の一にも満たない。そこに収納するのは物理的にも不可能だ。
にしても鋭利そうなハサミだ。セロが来てくれたらあの森も簡単に攻略できたんじゃないか?
「ちょっとした魔法。のようなものと思っていただければ。そういうタイヨウ様も」
「タイヨウ。どうやら来客のようだぞ」
扉が音を立てて勢いよく開かれた。
「あんたら何者だ!」
入り口に立つのは小さな赤毛の少女。ざっくばらんに切られたくせ毛のショート。そばかすのある褐色肌には砂埃が付いていた。
ジーンズで出来たつなぎを着ていて、スパナやドリルのような工具が腰のベルトに取り付けられていた。
「えっと、僕たちクラトスさんに――」
「ヘッダ兄貴! 泥棒だ!」
ここで待ってるように言われただけで、怪しいものじゃ。そんな弁明は彼女の大声にかき消された。
「泥棒? どこだ。細切れにしよう」
低いノイズ交じりの声。入り口から先端の尖ったドリルが顔を覗かせた。三角のドリルには所々欠けた、小さな棘が無数についていた。
話を聞かない少女と、恐らくクラトスと同じオートマータらしき存在。
「ちがっ誤解です!」
「泥棒はそうやってごまかそうとするんだろ!」
「ヘッダ兄貴! やって!」
「おう」
誤解を解こうにもクラトスが戻らなければ、話すらさせてもらえなそうだった。
ヘッダとよばれたオートマ―タのドリルが回転を始めた。あんなもの、触れたが最後、一瞬でミンチの完成だ。
「タイヨウ様。どうしましょうか」
ハサミを持って壁際に立ったままのセロ。動揺した様子も慌てた様子もない。
「えっと、倒す……のはあれだし、とりあえず、止めるだけ止めれますか?」




