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「ねぇ、アバロンまでどのくらいかかるの?」
この前の旅で食料の大半を使っていた。この旅の道中で確保しなければ尽きてしまうだろう。
「私なら三ヶ月で行けます。しかし、人の身ならば半年は必要でしょう」
「なら、食料は道中でどうにかしないとね」
「アバロンはここから北にずっと行った先にあります。道中にスーパーなどもあるでしょう」
「だと良いけど。セロが前にここを出たのはいつ?」
「……少なくともマスターが亡くなってからは」
「そっか」
蜘蛛から降りていく。周囲には住宅街が広がっている。探せばスーパーなんかもきっとあるのだろう。
だが、そこに行くのは無駄だ。
「上から見ていた時も思ったのですが、ここら辺は人を見かけませんね」
「うん」
タイヨウが旅を始めてから人を、タイヨウと同じ見た目の種族を見たのは、この前のフウロのいた町が初めてだった。
「この町はだいぶ昔から、だれも住んでないわ」
「それは……どうしてでしょうか」
住宅街を歩いて進む。家々からは明かりが漏れており、家の庭や軒先には、雑草が放置された様子も埃が積もっているわけでもない。
人も車も一台たりとも通らないことを除けば、いたって普通の住宅街だ。
「この町は呪われたのよ。たった一人の聖女にね」
「聖女? っていうか、入って大丈夫だったの?」
この町のことについては、タイヨウも詳しくは知らなかった。
ただひとつ、絶対に中に入ってはいけない。
としかツキからは言われていなかった。
「聖女にさえ気を付けてれば、無傷で出られるわ」
「それで聖女というのは?」
「遠くの国から連れて……いいえ、持って来られた呪物の通称よ。それは人の命を吸って奇跡を起こすの。この町には聖女によってどれだけ時間が経っても劣化しない。姿を変えない奇跡。……呪いがかけられてるの」
「ねぇ、じゃあどうしてあそこは削れてるの?」
タイヨウは目の前の通路の電柱を指さした。まるで横から巨大なスプーンで削られたみたいに、電柱が楕円に削れていた。車の事故の後には見えない。
「よく見れば壁にもところどころ擦り傷のようなものがありますね」
セロが壁に触れる。両側の壁には一直線になにかで擦ったような傷がついていた。
「すぐ、ここを離れましょう」
「やっぱ、まずいよね。これ」
「町が完全に修復されるには時間がかかるの。これなら一日経ってるか経ってないか……気配はないけど。そう遠くない場所に聖女がいるわ」
聖女。こんな傷を壁につけながら移動している? いったいどうして。
タイヨウを先頭に、曲がり角ではツキが先を見ることで、進んでいく。
生き物のいない世界は驚くほど静かで、こんな場所にずっといると、世界から自分たち以外消えてしまったような感覚に陥る。
「止まって!」
ツキが曲がり角の先を見て、小さくも、急いた声を出す。
この何も居ない世界での危険信号。それの示す先はひとつしかない。




