02
「どうして引き受けたの?」
場所は海岸から数キロ離れた道路。
ツキが白くて鱗の付いた顔をリュックから出す。
その声からは不満が漏れていた。
「だって、困ってたら助けたいじゃん。
それに、僕たちの旅に目的なんか無いんだし、寄り道くらいいいでしょ?」
「……そうね。話す砂男っていうのも興味あるし」
「なんだ。起きてたなら出てくれば良かったのに」
「だからって、あんなよく分からないのと話したくないし、話してほしくないのよ」
「でも、良い人だったよ」
ツキはため息を吐いて苦言を漏らす。
タイヨウにそれを気にした様子はない。
先端が二股に分かれた舌をチラつかせて、ツキは周囲を軽く見渡した。
「まぁ、好きにしたらいいわよ。代わりに危険だとおもったらすぐに離れるからね」
「うんわかった。ありがとうツキ」
ツキはタイヨウの肩に頭を乗せ身を任せた。
なんだかんだ言ってツキはタイヨウに甘い。
記憶のないタイヨウにとってツキは母親であり、旅を共にする仲間だ。
砂浜をあがってアスファルトで出来た道路を歩く。
遠くに光を反射する黒い金属の塔が、所々に建ち始めた。
見上げるとそれらは全て頭上で一つの大きな物体に繋がっていた。
黒い金属で出来た蜘蛛だ。この塔はその足だ。
あと少しで海岸というところで、タイヨウは足を止めた。
海岸に降りるための一本道で工事をしている。
独特の形をした車両が道を塞ぐように並んでいた。
「あれって」
「オートマータね。でもここら辺では見ない種族ね」
「あの〜? なにかあったんですか?」
「ん? あ〜海岸行くなら悪いが諦めてくれ」
話しかけたのは道を塞ぐショベルカー。
若干ノイズの入ったスピーカーから歯切れの悪い声が聞こえた。
フロントガラスの代わりについているモニターに表示された目が僕を見て、バツが悪そうに歪んだ。
彼は大きなシャベルで頭を掻きながら横にずれた。
道を完全に塞いだ巨大な岩。
別の車両が先端に付けた大きなドリルで削っていた。
岩の大きさに比べると、ドリルは爪楊枝のようで、岩を削り切るのにいつまでかかるか分からない。
「見ての通りだ。まぁ数日あれば終わるだろうさ」
「数日ですか……」
数日もここで足止めされるのは困る。
かといって横に隙間があるわけでもないし、海を泳ぐわけにもいかない。
岩をどうにかしなければ、海岸には行けなかった。
「そういうわけで、悪いがまた後日来てくれないか?」
「すみません。ちょっと試してもいいですか?」
リュックを背負い直したタイヨウは岩まで近づく。
「そこのドリルの方、離れられますか? この岩がなければ通って良いんですよね?」
「それはそうだが……おい、何する気だ?」
「僕こう見えてけっこう力あるんですよ!」
何度か拳を握り、腰を低くかがめて思いきり突きを放った。
「なに無茶な……」
衝撃波が周囲を吹くと、岩からピシリと音が鳴った。
「おい、マジかよ」
亀裂が走り、盛大な音を立てて崩れ落ちた。
「これで通れますね!」
その見た目に反し圧倒的な力。
これほどの威力は、彼の所属する会社のどの車両よりも強力だった。
拳に付いた砂を払い笑顔で振り返ったタイヨウ。
大きなショベルを付けた彼は、呆然とディスプレイを点滅させることしか出来なかった。




