18
「よし、覚悟はできたか?」
森の前で最後の確認。タイヨウと同じくリュックを背負ったウッドが装備を点検した。
タイヨウの装備はリュックのみ。武器はその素手だ。
「これを使え」
渡されたのはスプレー缶。ラベルもなにもないむき出しだ。
「それを体に賭ければ植物には襲われない」
「植物には?」
「あぁ。知らないのか? この森は植物と同じくらい、虫が厄介なんだ。俺の傷も虫にやられた」
初耳だ。だが、虫ならまだどうにかなるだろう。
「どうした、やめるか?」
「いえ! 行きますよ!」
植物よりは、打撃でも戦えそうだ。そんな甘い考えでタイヨウは頷いた。
森の中に入ると、途端に薄暗くなる。まだ朝方だったはず。
森の木々が空を覆うように枝を広げていた。鬱蒼とし、視界も悪い森のなか。時折聞こえる虫の声に精神が張り詰めた。
植物は、スプレーのおかげでその動きを見せない。今のところはただの薄暗い森だ。
「お前の探してるサマリーはこの森でも相当奥にある。覚悟するんだな」
周囲を警戒しながら素早く進む。今のところ虫には出会っていない。
だが相手は虫だ。その大きさから、どこにでもいることは予測できた。もしかしたら既に近くにいるかもしれない。そう考えると、気が気じゃなかった。
進むにつれてより森は濃く暗くなっていく。
「止まれ!」
鋭いウッドの声、引っ張られるようにして倒木に身をかがめた。
どしんと、血を震わせる音。それは、周期的に聞こえる。
「絶対に顔を出すなよ」
ウッドはタイヨウの頭を是面すれすれに押し込む。その声は冷静に聞こえるが、若干震えている気もした。
音が近づいてくる。地響きが大きくなり、その震源地がついに真横に来た。
呼吸が詰まる。キリキリキリとまるで金属をこすり合わせたような不快音。
タイヨウは気になって、こっそりのぞいてみることにした。
丸太の端から震源を見ると、タイヨウは思わず声を出してしまいそうになった。
そこに居たのは大きなバッタ。その大きさはちょっと大きいなんてものじゃない。
その大きさは大型トラックと遜色ない。まさに生きる重機だ。ガラスのような瞳が薄暗く光る。
その眼はどこを見ているのか分からない。不気味さがあった。
幸い、巨大バッタはこちらに気づかず、その鉄骨のような足で地面を震わせて跳んで行った。




