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「ねぇ、次はどうしようか」
烏色が見えなくなるまで見送ったタイヨウは、海を眺めながら歩いていた。
「ねぇ、砂浜なんかおかしくない?」
砂浜にはゴミの一つも落ちていない。
一見なんの変哲もない砂浜だ。
そう、なんの変哲もないのだ。
「ねぇ、セウストさんの分身いなくない?」
砂浜に無数にあった砂の像は跡形もなく消え去っていた。
「さぁ、なにかあったのかしらね」
「えぇ、大丈夫かなぁ?」
砂浜から前方へと視線を戻すと、目の端に何かが動いているのが見えた。
「ねぇ、あそこ。誰かいない?」
蜘蛛の上、その背中に人影が立っていた。
タイヨウが見ているのに気が付くと、その影はすっと中へと消えてしまった。
「えっやっぱいたよね!」
「もう誰も住んでないはずだけど、だれかしらね」
「行ってみようよ」
タイヨウの好奇心に火がついた。
目を輝かせて蜘蛛のほうを指さした。
蜘蛛の足には閉じた扉があり、その横にはボタンが設置されていた。
動作していたのははるか昔の話。
もう錆びついて動かないエレベーターだ。
「これ動いてないよ?」
足に設置された呼び出しボタンは、何度押しても反応しない。
「そりゃ、だいぶ昔の設備だからねぇ。たしか階段もあったはず。下のほうに非常用の解放ボタンなかったかしら」
タイヨウが地面近くを探ると、一か所だけへこんでいた。
「これ?」
凹みにあるとっかかりを引くと、足に取り付けられた扉が音を立てて開いた。
エレベーターは上の方で止まっていた。
エレベーターを囲むように設置された螺旋階段が上まで続いていた。
狭く、手すりもない急こう配な階段。
それをひたすら上ると、背中に出た。
勢いよく風が吹いて倒れそうになった。
タイヨウが出てきたのと同じ入り口が計八つ。
かつての栄光を示すように、朽ちた屋台が無数に散乱していた。
唯一原型を保っていたのは、隅にぽつんと置かれたコンクリで出来た無機質な箱。
茶色い鉄の扉が小鳥のさえずりのような音を立てて揺らめいており、その前には女性が姿勢よく立っていた。
「ねぇ、誰かいるよ?」
「あれは……害はないでしょうね」
「そう? なら大丈夫かな」
「いらっしゃいませ。ツキ様」
白と黒のメイド服にを着た女性が両手を前に揃えて立っていた。
「え、知り合い?」
閉じていた目が開いた。その眼はきゅっと音を立てて瞳孔を動かした。
「お前、あの爺さんの一号か」
「はい。マスターによって作成された自立思考型アンドロイド。セロでございます。奥でマスターがお待ちです」
セロはスカートの裾を掴み、優雅に一礼した。




