第8話
なるほど。
確かに面と向かって何かを言われることは無いが、白い目で見られてるな。
「あんたがいるから、今日はもっとよ」
俺の思っていたことを察したのか、少し前を歩いていたアリアナがそう言ってきた。
「離れましょうか?」
「今更意味ないわよ。それに、あんたを使い魔として登録するんだから、同じことよ」
あー、そういえばそうだったな。
「その使い魔というものはどこにいるのでしょう。パッと見た限り、そんなものが人間の近くにいるようには思えませんが」
「召喚される前に暮らしていたところにいるみたいよ。それがどこかは分からないけど」
「長時間召喚しておくことは出来ないということでしょうか?」
それなら、尚更悪魔の方が良いと思うんだが。
「そういう訳じゃないわ。ずっと召喚しておこうと思えば出来るけど……使い魔の種類によって、無理だったりするのよ。例えば、ドラゴンとかを使い魔にしていると大きさ的に邪魔でしょ。種族的にずっと召喚しておくには環境に適さない使い魔だっているみたいだし」
そう言って教えてくれるアリアナの瞳には確かな嫉妬の感情が混じっているように感じられた。
……いつでも逆らおうと思えば逆らえるとはいえ、俺を使い魔にしようとしてるんだから、そんな感情見せる必要なんて皆無なんだがな。
まぁいいか。
それより、ドラゴンか。
……確かに、イメージ的に俺以外の悪魔じゃ勝てないかもな。
実際のドラゴンなんて見たことないし、ドラゴンの強さなんて全く知らないから、本当にイメージでしか語れないけど。
というか、使い魔は召喚される前にいたところで普段は過ごしてるって話だけど……俺がいたところのような悪魔の世界みたいなものがあったりするのかね。
使い魔の世界的なさ。
「ドラゴンとは、使い魔の中でも上澄みなのですか?」
「……普通くらいよ。上澄みは……龍とかがそうなんじゃないの」
「……違いが分からないんですが」
ドラゴンも龍も同じじゃないのか?
いや、これはあくまで俺の想像だし、本当は全く違うのかもだけどさ。
「……龍自身が言ってるのよ。私たち人間も詳しくはよく分からないわ」
「喋るんですか」
「…………あんた、本当に何も知らないわね」
「最近の出来事には疎いのですよ」
「最近って……もうそのことが世に知られるようになってから、900年以上経ってるわよ。言い訳するならもっとマシな言い訳しなさいよ」
悪魔だから長く生きていることくらい察せられるだろうに、その上で呆れられてしまうということは……まぁ、なんでもいいか。
そこまで深く考えることでもないしな。
そんなことを思っている間にも、学園の目の前に辿り着いていた。
「こっちよ」
教室にでも行くのかと思いきや、他の人間たちの向かっている方向から俺を連れて外れるアリアナ。
使い魔の登録をする場所──ん?
「……くふ」
やっぱり、悪意ってのは心地よくていいね。
悪魔共を作った時に悪意という感情を抱くように作っておけばよかったかな。
いや、あの時点での俺はまだ悪意を心地良いなんて感じるタイプじゃなかったし、無理な話か。




