第6話
「そろそろ戻っておくか」
見た目をアリアナの知る悪魔の姿に戻しながら、俺は寮の部屋に戻った。
アリアナはまだ眠っていた。
朝だし、起こしてやるか。
一応、朝になったら起こせとも言われてたしな。
「アリアナ様ー、朝ですよー」
「ん、んん……」
俺がせっかく起こしてやっているというのに、アリアナは2度寝をしようと布団に潜ろうとしやがったから、俺はアリアナの鼻を摘んでやった。
「ん、んん!? な、何するのよ!」
「お前……失礼。アリアナ様が起きないから仕方なく、ですよ。私も心が痛いです」
「う、嘘おっしゃい! あ、あんた! 凄い楽しそうな顔よ!?」
「恐らくアリアナ様の勘違いでしょう。これほどまでに心を痛めているというのに、そんなことを仰られるなんて……私、泣いてしまいそうです。いえ、悪魔でさえなければ、泣いていたことでしょう」
アリアナの前での俺はこんなキャラだったりする。
なんか、こっちの方が面白いかなって思って。
ちなみに気分的にやってるだけだから、途中で飽きたら普通にやめる予定だ。
「それより、朝ですよ。よろしいのですか?」
「ッ、そ、そうだわ。こんなことしてる場合じゃないわ! 早く朝食を食べて、学園に行かないと! ラスト! 用意しなさい!」
……?
ラストってのは俺だよな?
え? この子、俺に言ってるの?
いや、無理でしょ。何千年と生きている俺だけど、悪魔の世界に食材なんてものは何も無いし、当然料理をしたことなんて1度もない。
出来るわけがなかった。
「無理ですね」
「な、なんで無理なのよ!」
「悪魔ですから」
「は、はぁ!? あんた以外の悪魔は出来るわよ! この役立たず!」
……???
俺以外の悪魔は出来る……?
いやいや、冗談だろ?
あいつらに料理なんて……え? 出来るの?
なんで?
「……一応聞いておくんですが、アリアナ様」
「……何よ」
「本当に他の悪魔は料理が出来るのですか?」
「……出来る悪魔もいるらしいわ。……どうやら私の悪魔はハズレみたいね」
マジか。
「もういいわ。今日は朝食抜きでいいわよ。この私が召喚する悪魔なんだから、料理くらいできると勝手に思ってた私の責任でもあるし」
「……アリアナ様はどういった目的で私を召喚したのですか?」
興味が無かったから聞いてなかったけど、このまま役立たずと思われるのは心外だ。
だからこそ、俺はそう聞いた。
「…………使い魔が召喚出来なかったから」
「使い魔?」
「に、人間なら、誰でも召喚できる自分の分身のような存在よ……」
ふむ。
知らないな。
少なくとも、俺が定期的に現世のことを見ていた時代には無かった技術だと思う。
「アリアナ様は召喚できなかったと」
「ぅ……そ、そういう見方も出来るわね」
つまり俺は使い魔の代わりに召喚されたわけか。
でも、使い魔よりも悪魔の方が良くないか?
見たことがないから知らないけど、悪魔より強いとは思えないけど。
「……あんたには理解できないでしょうけど、当たり前のことが出来ないって、人間社会じゃ攻撃の対象になるのよ! ……私は家の家格が良い方だから、面と向かって何かを言われたり何かをされることは無いけど、家格が良いからこそ、そういうのは分かるものなのよ!」
多分だけど、悪魔を召喚する才能の方に吸われたんだろうな。
俺を召喚出来るなんて相当だし。
なら、俺は感謝すべきか。アリアナに使い魔を召喚する才能が無かったことに。
というか、結局俺を召喚した理由はなんなんだよ。
使い魔を召喚する才能が無かったってのは分かったけど、俺に何をさせたくて召喚したのかをまだ聞けてないぞ。
「だから、あんたには、私の使い魔の代わりになって欲しいのよ。一応、悪魔でも登録は認められてるし。……貴族の血筋ともなると、普通は使い魔の方が強いから、殆どの人がしないけど……」
「……悪魔より、使い魔の方が強いのですか?」
毎日毎日飽きずにずっと殺し合いをしているイカれた奴らだが、そのおかげか、最初に作った時よりも確実に強くなっているような奴らだぞ?
それが使い魔だなんてここ最近現れたであろう訳の分からん存在よりも弱い……?
冗談だろう?
「……ラストとしてはそりゃ認めたくないでしょうけど、そうよ」
「……へぇ。それは面白いですね。いいでしょう。仕方が無いので、才能の無いアリアナ様の為に、他の使い魔全て私が殺してみせましょう」
「こ、殺しちゃダメよ! そ、それにどうせ出来ないし……と、とにかく、殺すのはダメよ。せめて半殺しとかじゃなきゃ、私が学園を追い出されちゃうわよ! それが例え公式な試合の中だったんだとしてもよ!」
半殺しか。
俺が転生してから相手にしてきたヤツらは殺しても死なないような悪魔共だから、少し不安だが……まぁ、大丈夫だろ。
最悪、殺してしまっても罪に問われるのはアリアナだしな。
一応、アリアナが望むのなら助けてやるつもりではいるけどさ。




