第4話
門をくぐると、視界が光に包まれた。
知識では知っていたが、実際に経験するとこんな感じなんだな。
そして、光が消えてなくなる。
それと同時に、俺の目の前には……確か王国にある学園の制服を着た長い赤髪の気の強そうな顔をした少女が立っていた。
そうか。こいつが俺を召喚したのか。
こいつが、俺をあの虚無の空間から解放してくれたのか。
思わず笑みを浮かべてしまう。
「っ」
すると、目の前の少女は気の強そうな顔ながらも、どこか不安そうな様子でこっちを見つめてきていた。
……ん? あぁ、そうか。俺があの例の定型文を言わないからか。
別に言わなくてもいいんだが……今は本当に良い気分だし、それくらい付き合ってやるか。
「望み、そしてそれに見合う対価は?」
俺がそう発した瞬間、パァっと笑顔になる少女。
俺にそれを見られたことを察して、直ぐに笑顔を消していたけど。
……こいつ、面白いな。
「わ、私の命がある限り、私に一生の忠誠を誓いなさい! そして私が死すべき時、悪魔の世界に帰りなさい! た、対価は私の魔力を定期的に提供するわ!」
なるほど、考えたな。
確かにこの子の魔力は普通の人間に比べてかなり色濃くて珍しい。普通の悪魔なら、承諾しないとおかしい内容だ。
……あ、というか、魔力って俺が勝手に命名したものだと思ってたんだけど、こっちでもそうなんだな。別になんでもいいけどさ。
「断る」
正直に言うと、さっき考えていたこともあり、この子になら人の寿命分くらいなら付き従ってもいいという考えはあるし、頷いても良かったんだけど……ここで断ったらどうなるのかがちょっと気になっちゃったんだよな。
ま、悪魔なんて自分の愉悦の為に生きているような生物だ。
ちょっとくらい、遊んでもいいよな?
俺は何千年かぶりの人との絡みなんだからさ、お茶目なところが出ても仕方ないさ。
「ぇ……?」
まぁ、断られた方は気が気じゃないだろうけど。
「ぁ、な、なんっ……ま、待って、わ、分かったわ。そ、それなら……えっと……た、対価は、わ、私よ! わ、私のことを好きにしていいから!」
涙目で目をぐるぐるとさせ、顔を真っ赤にしながらもう何が何だか分かっていない様子で少女はそう言ってきた。
少女の体を改めて見つめる。
身長は150センチってところで、胸は……無いな。驚く程に無い。
「な、な、何よ! わ、私の体に不満があるっていうの!?!?!?」
……まぁ、この子はそういう意味で言ってるんだろうけど、そもそも悪魔に性欲とかってあんのかね?
いや、俺はあるぞ?
悪魔を作る前は1人で処理してたしな。
悪魔を作ってからは周りに常に悪魔がいて、無理だったけど。
今話してる悪魔ってのは俺じゃない悪魔共の話だ。
あいつら、絶対性欲とか無いよな。
仮にあったとしても、絶対に殺意というか、人を殺したいって欲の方が強いと思う。
つまり、この子、召喚されたのが俺以外だったら、多分殺されてるぞ?
忠誠を誓わなくちゃとはいえ、抜け道くらいいくらでもあるだろうしな。
ま、今そんなことはどうでもいいか。
この子が召喚したのは普通の悪魔じゃなく、俺なんだし。
改めて考える。
顔は可愛いし、俺も溜まってる。……あれ? 凄いありだな。胸は無いし、ちんちくりんな子ではあるけど、ありだぞ?
しかも学園の生徒ってことは貴族の令嬢ってことだし、そういう部分の背徳感とかも味わえると思えば、本当に悪くないと思う。
どちみち対価無しでも人の寿命分くらいは付き従ってやるつもりだったんだし、そういうメリットもあるとなれば、ここで頷かない理由は無いか。
「それなら、分かった。貴方様に忠誠を」
俺はそう言って片膝をつき、頭を下げた。
「ッ、そ、そうよね。た、対価が私の体、だものね。
う、頷かないわけないわよね。……わ、私の体……ぅ、ち、ちゃんと私のために働きなさいよ!」
「もちろんです。なんだってしてみせましょう」
「そ、それじゃあ、名前をあげるわ。考えていたものがあるのよ」
名前……? あぁ、この子は名前をくれるタイプの召喚主だったか。
「今日からあんたの名前はラストよ!」
……色欲やん。
え? 今考えた訳じゃないよな? 俺がこの子の体を対価に契約をしたから、そんな名前をつけてきたわけじゃないよな?
まぁ、なんでもいいけど……いや、やっぱりちょっと納得いかないな。
せめて傲慢とか強欲の方がマシだった気がする。




