第37話
「ここですか」
「……え、えぇ、そうよ」
「おや? アリアナ様、随分と疲れている様子ですが……大丈夫でしょうか? これから序列戦が始まるというのに、体調管理をしっかりとしてもらわなければ、困りますよ」
やれやれ、とわざとらしい仕草をしながら、俺はそう言った。
「だ、だ、だ、誰のせいだと思ってるのよ!」
顔を赤くして怒ってくるアリアナ。
「シンプルに体力が無く、体力管理を出来ていないアリアナ様のせいでしょうか?」
「ち、ち、ち、違うわよ! あ、あんたのせいよ! あんた!」
こっちに向かって指を指してくるアリアナ。
俺は後ろを振り向く。
「はて?」
「ッ〜〜〜!」
わざとらしく首を傾げてやると、地団駄を踏んで更に怒りを露わにするアリアナ。
「アリアナ様、1人で騒いでなどいないで、準備を進めるためにも、序列戦を行う者の待機場へと向かいましょう。決められた時間までにそこに居なければ、棄権となってしまうのでしょう?」
「だ、だ、だ、だから〜〜〜!!! ……ふ、ふぅ。わ、わ、わ、分かった、わよ。い、行く、わよ。じ、序列戦に遅れでもして、逃げただなんて言われたら嫌だもの。あんた……ラストのせいでね!」
ぷいっ、と俺から顔を逸らし、そのまま歩いていくアリアナ。
「糖分不足でしょうか」
「ッ〜〜〜!」
俺のボソッと言った言葉が聞こえていたのか、アリアナはそんな悲鳴を上げていた。
ほんと、面白いなぁ。
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「そろそろね。行くわよ、ラスト」
そう言って、待機場から戦いのリングがある場所に続く道へと向かっていくアリアナ。
俺はそんなアリアナの後を待機場に置いてあったしょぼいお菓子を食べながら、続いた。
余談だが、貴族が集まる学園なのに置いてあったお菓子がしょぼい理由はアリアナに聞いたところ、簡単に言えば序列1000位と950位の戦いだから、らしい。
もっと美味しいお菓子を俺が食べるためにも、アリアナには早く序列を駆け上がって欲しいものだな。
そして、序列戦のために用意されているリングの上にアリアナと一緒に立つ。
気配で分かってたことだが──
「観客が随分と少ないですね。こんなものなのですか?」
「……私と相手の順位を考えなさいよ。これでも、多い方よ。……私の負ける姿でも見たいんじゃないの? どうでもいいけれどね。どうせ、勝つのは私たちだもの」
なるほど。
確かに、そんな低レベルな奴らの争いなんて普通、わざわざ放課後の時間を割いてまで見になんてこないか。
納得だわ。
……俺なら、序列1000位と950位の戦いなんて逆に面白そうで見に行くと思うけど……まぁ、この数少ない観客たちがそういう奴らってことなんだろう。
それで、あれが対戦相手か。
……なんか、やる気のなさそうな顔をした男だな。
……950位でやる気に燃えられてても逆に困るけどさ。色んな意味で。
「…………来い」
その一言で魔法陣と共に男の横に1mくらいの宙に浮くペラペラのハートが現れた。
ただのハートだったのならまだともかく、そこに目がついてたりしたから、普通に気持ち悪かった。
ふむ。
てっきり使い魔の召喚には名前を呼ぶことも必須なんだと思ってたんだが……そういう訳じゃないんだな。
後、使い魔ってのは全員が全員あんな気持ち悪い見た目……って訳でもないのか。少なくとも、あの老婆教師の使い魔は気持ち悪くは無かったしな。
「お2人とも、準備はよろしいでしょうか?」
この試合の審判をすることになっているであろう男がアリアナと相手の男に向かってそう聞く。
「いつでもいいわ」
「…………問題ない」
「では、試合開始!」
さて、始まったな。
アリアナには試合が始まった瞬間に空間属性の魔法で隙をついて倒しなさい、と言われているが……結局、俺は昼にあの目ん玉使い魔が最後に充血していた理由を青髪の変な男……あー? なんだっけ。ドードリオ……では無いな。……この思考、少し前にやったような──まぁ今はいいか。
とにかく、青髪の変な男に邪魔されて、調べられなかったしな。出来ればここで確かめたい。
一応、俺の予想としては使い魔特性を使いすぎたからだと思ってるんだが──
「?」
そこまで考えたところで、俺の心臓の動きが妙に早いことに気がついた。
緊張している? いや、そんなわけが無い。
そうか。これが相手の使い魔の使い魔特性か。
強制的に心臓の動きを早くさせ……緊張状態に陥らせる、といった感じのものなんだろう。
950位らしい、なんとも地味な能力だ。
戦争とかでは活躍しそうだがな。
相手が強力な攻撃系の使い魔特性を使える使い魔を持ってたんだとしたら、微妙すぎる。納得の順位だな。
そんなことを思いつつ、俺は自分の心臓の動きを止めた。
うるさかったし。
アリアナは──
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
──胸辺りを強く掴み、過呼吸になっている様子だった。
こいつ……序列最下位にいたのは使い魔がいなくて、序列戦に挑めなかったから、じゃなかったのかよ。




