第32話
Side:アリアナ・チェントラッキオ
隣に立つばか悪魔に失礼なことを考えられた気がするわ。
「よろしくお願い致しますわ、アリアナ様」
今すぐにでもばか悪魔に殴り掛かりたい気持ちを私の広い気持ちで抑え、口を開く。
……さっきは良いことを言ってくれもしたしね。
「えぇ、よろしく」
私の方が家格が上なんだから、当然の態度……なのだけど、ミミンはニコニコと笑みを顔に張りつけ、私の顔を正面から堂々と見つめてくる。……視線が不愉快ね。
魔法の実力はどう考えても私の方が上だっていうのに……使い魔を召喚できないというただその一点だけでよくもこの私にそんな視線を向けられるわね。
まさかこの私が気が付かないとでも思ってるのかしら。
私にだって使い魔が居れば……いえ、違うわね。もう、私には使い魔がいるわ。
失礼で本当にばかな悪魔だけど……授業で助けてくれたこともあるし、さっきだって、またルーナリア先生に言い返してくれた私の……唯一の味方。本人には絶対言わないけど、頼れる悪魔……使い魔がもう私にはいるのよ。
絶対、こんな相手に負けたりなんかしないわ!
「来てください、ひとみちゃん」
ミミンが使い魔を召喚する。
浮遊型の使い魔ね。
少し前……いえ、さっきまでの私だったら、羨ましいという嫉妬の感情を覚えていたかもしれないけれど……もう、そんな感情なんて一切私の中には無かった。
ただ、どうやってミミンを倒すか。
今の私の頭の中にある考えはそれだけだった。
ラストの方にチラッと視線を向ける。
大丈夫ね。ラストにも臆しているような様子はないわ。
当たり前だけどね。さっき……いえ、さっき所じゃないわ。いつも私にあんな大口を叩いてるんだから、序列742位相手に臆することなんてこの私が許さないわ! ……私に……使い魔がいなかったんだから、仕方ないって言ってる私に! 雑魚雑魚雑魚って! いっつも言ってくるばか悪魔の怯えるような姿はちょっとだけ……いえ、かなり見たかったけれどね! 何が雑魚でどうしようも無い存在よ! 私は強いのよ! それに、あんたはばかでどうしようも無い存在じゃない!
ほんと、私以外に召喚されてたら、速攻で契約を解除されてたわよ。
……ほんと、ばかなんだから。
「両者ともに準備はよろしいですか?」
「問題ないわ」
「わたくしも、大丈夫です」
……でも、私、そんなばか悪魔との契約で体をすきにしていいって言っちゃってるのよね。最初は私の魔力を定期的に渡すって条件のつもりだったのに、あのばか悪魔、断るなんて……ほ、ほんと生意気なんだから! し、しかも、私の体を条件にした瞬間、頷いちゃって!
……わ、私は客観的に見ても魅力的な女性だし、ラストが私の体を契約の条件にした瞬間頷いちゃうのも無理無いけど……自分の欲に素直すぎなのよ!
……ほ、ほんと変態なんだから。……ま、まぁ、でも、す、少しくらいなら、そろそろ許してあげても──
「では、始め!」
そこまで考えたところで、ルーナリア先生の試合開始の合図が耳に入ってきた。
「ッ、ら、ラスト! あんたは使い魔の方を頼むわよ! あの力は序列戦の方にとっておきなさい!」
咄嗟にラストにそう伝える。
ラストなら、これで伝わってるはず。
使い魔の方はラストに任せて、私はミミンの方に集中よ。
1体1なんだから、絶対負けないわ。
とはいえ、私は相手の手札を知らないわ。
いくら実力差があるとはいえ、闇雲に何も考えずに戦ったら負ける未来は見えてる。
だからこそ、まず私は相手の手札を見ることに集中することにした。
「ストーンバレット」
狙い通り攻撃を仕掛けてきてくれるミミン。
やっぱり、魔法の腕は普通ね。私以下だわ。
私は魔法を使うまでもなく、魔力を前方に展開して、ミミンの攻撃を防いだ。
ミミンはニコニコとしていた顔を一瞬崩して、悔しそうな顔をしていたけど、この程度、当たり前よ。
私とあんたじゃ実力が違いすぎるんだから。
それに、私は使い魔が召喚できないって分かる前までは……いえ、これはどうでもいいわね。
と、とにかく、私は優秀なんだから!
魔力だって普通の人とは違う特別なものだってことは分かってるし、だからこそ、こうやって魔法を使うまでもなく相手の魔法を防げるんだから。
「その程度かしら? それなら、私はこのまま魔法を使うまでもないわね」
防ぐことは出来ても、攻撃することは流石に出来ない。
それでも、挑発するように私はそう言った。
「……今のはただの小手調べですわ」
「そう? 貴方に小手調べなんてものをしている余裕なんて無いと思うのだけど……まぁ、無駄なことを勝手にするのは自由だわ。好きにしなさい」
余裕綽々な態度でそう言ってやる。
……ラストのせいで、人を煽るのが上手くなった気がするわ。……あぁ、なんか、また腹が立ってきたわね。……いくら心の広い私でも、いつもいつも言い過ぎなのよ!
「火力は抑えてあげるわよ。……獄炎」
ミミンの周りが燃え上がる。
「ッ、土壁!」
ミミンはすぐさま土の壁を自身の周りに生成して体を守ろうとしていたけれど……その程度の魔力で作られた壁、私の炎の前には無意味よ。
予想通り、ドロドロに溶けていく土の壁。
もう勝負あったようなものだけど?
そういう意図を込めた視線を審判をしていたルーナリア先生に向ける。
すると、ルーナリア先生……どころか、観戦をしていた他の人たちも私の方を見ていないことに気がついた。
ルーナリア先生の視線を追う。
すると……ミミンの使い魔を後ろから片手で掴んでいるラストの姿がそこにはあった。
それを確認した瞬間、みんながそっちに視線を集中させていた理由を理解した。
……私の視線もその使い魔に固定されたんだから。
「……なにやってんのよ。あのばか」
思わず、私は呆れるようにそう言ってしまっていた。




