第29話
あの後、アリアナは残念なことに……いや、無事に授業にはギリギリ間に合っていた。
「直ってますね」
昨日俺が適当な生徒2人の魔力を暴走させ、ぐちゃぐちゃになっていたはずの地面がすっかり綺麗に整えられている様子を見ながら、俺はそう言った。
「当たり前でしょ。ここは学園なんだから。その程度を直せないようじゃ学園の教師になんてなれないわよ。……ルーナリア先生にそんな実力があるだなんて、あんまり気持ちのいい話ではないけれどね」
「まぁ、使い魔も召喚できないアリアナ様からしたら、皆様同じようなものでしょう」
「う、うるさいわね! ま、魔法なら、私だってちゃんと強いのよ!」
「……」
「……な、何よその目は!」
「疑わしいものを見る目です」
「ふ、ふんっ! ま、まぁいいわ。どうせ今日こそは実戦があるもの。あんたに私の実力、見せつけてあげるわよ!」
「それは楽しみですね。慰める準備をしておくので、思う存分無様を晒してください」
「だ、だ、だから〜〜〜! そ、そもそも、あんたも一緒に戦うのよ! もしも私が無様を晒すようなことがあったら、あんたも一緒なのよ!」
「それは大変ですね。……では、私も恥を掻く準備をしておかなくてはなりませんね」
「も、もう〜〜〜! ほ、ほんとに、あ、あんたは〜〜〜」
地団駄を踏むアリアナ。
相変わらずその姿は面白い。
「と、と、と、とにかく! あ、あんたも一緒なんだから、ちゃんと頑張って戦うのよ!」
「仕方ありませんね。アリアナ様は慣れているかもしれませんが、私は恥を掻くことには慣れていませんので、精一杯頑張ってみましょうか」
「こ、の、ばか〜〜〜!」
そのまま殴りかかろうとしてくるアリアナ。
そこでチャイムが鳴った。
「ぅ……は、早くみんなが集まってるあっちに行くわよ。……命拾いしたわね! 授業が始まる直前で!」
どうせ当たらないから、命拾いもクソも何も無いことはアリアナも分かってるだろうに。
ま、そういうアリアナの強気なところも面白いから良いんだけどさ。
「では、今日は実戦に限りなく近い試合を皆様にはしてもらいます」
実践に限りなく近い……?
「……使い魔を使った試合ってことよ。……つまり、いつも通りね」
俺の疑問を察してくれたのか、小さくそう言ってくれるアリアナ。
それなら「今日は」とかわざわざ言うなよな。あの婆さん、マジでボケてんじゃねぇのか?
「使い魔がいない方は残念ですが、もちろん1人で参加してもらいますよ」
全く残念じゃなさそうな声色で老婆は言う。
「わ、私にだって、もう立派……立派? と、とにかく、使い魔がいますわ!」
「何故立派というところに自信が無いのでしょうか。少なくとも、アリアナ様よりは確実に私は立派なはずなのですが……」
「あぁ、そういえば、ミス・チェントラッキオは悪魔などという存在を使い魔として登録したのでしたね」
アリアナが俺以外には見えないように下唇を噛み、悔しそうにしている。
俺の言葉に対してなのか、あの老婆の言葉に対してなのか……まぁ、かなりの確率で後者か。
俺の言葉に対してだったら、普通に殴りかかってきそうだし。
……いや、流石に今は我慢するか?
「ふふっ。たった1日前の出来事だと言うのに、もうお忘れになっているとは……やはりもうお歳なのでしょうね。ボケ(認知症)対策はバランスの取れた食事に適度な運動が有効みたいですよ? メモをした方がよろしいのでは? またお忘れになられる前に、ね」
「ッ〜〜〜、み、ミス・チェントラッキオ! そ、その無礼な悪魔の制御……教育を昨日お願いしたはずですよ!?」
俺の言葉に顔を真っ赤にして、怒ったようにそう言ってくる老婆教師。
んー、パッと見の反応はアリアナと似てるんだけど……やっぱり、アリアナの方が面白いな。
シンプルに見た目がアリアナの方が若くて可愛いからってのはあるんだろうが……アリアナは顔以上に体にも感情が現れるからなぁ。
表情もかなり分かりやすい上にのこれだから、面白いんだよ。
あと、気の強さは絶対アリアナの方が上だし。そこがアリアナの面白さを加速させてるんだよ。
「昨日も申しました通り、誤解ですわ、ルーナリア先生。ラストは言葉こそ悪いものの、これでも純粋にルーナリア先生を心配してくださっているのですよ」
「ッ〜……ま、まぁいいでしょう。もう授業は始まっているのですから……皆さん! 戦う組を発表するので、よく聞いていてくださいね! ミス・チェントラッキオもですよ!」
そういえば、昨日の俺が魔力を暴走させた生徒2人が見えないから、結局退学にでもなったのかねー、なんて呑気なことを考えながら、俺は老婆の言う戦う組の発表を聞いた。
ただ、当たり前だが、聞いたところで何も分からなかった。
そりゃ俺、このクラスの奴らの名前なんてアリアナ以外知らないしな。
あー、いや、何も分からなかったっていうのは嘘か。一応、アリアナの相手がミミン・フラワタとかいう奴だってことだけは分かったな。
アリアナの顔は……ふむ。勝てそうって感じの顔をしてるな。
そんなに強くないやつなのかね。
でも、あの老婆がアリアナの対戦相手に選んだ相手なんだよな? そんなこと、有り得るのかね。




