第27話
「ッッ」
今日は俺が起こしてやることなく、アリアナは目を覚ました。
ただ、俺と目が合うなり、布団の中に潜り込んでしまった。
失礼なやつだ。
「こ、この変態悪魔!」
罵倒までされてしまった。
それは心地良いから全然いいんだけど、それは置いておいて……俺が寝起きからいきなり罵倒された理由なんてものは分かりきっていた。
昨日、アリアナを横抱きにしたまま転移で寮に帰り、アリアナをベッドに戻してやろうとした瞬間、タイミングのいいことにアリアナは目を覚ましたんだよ。俺はあくまでアリアナの眠りを深くしただけであって、目覚めなくした訳では無いから、それ自体は別に驚くことではなかったんだけど……タイミングが良すぎるんだよ。
目を覚ましたアリアナは寝起きでまだ寝ぼけていたのか、目をぱちぱちとさせ、少しだけキョロキョロと周りを見た後、俺と目が合い視線を止めた。
かと思うと、そのままアリアナはボンッ、という効果音が出そうな勢いで顔を真っ赤にさせ、口を開いてきた。
「こ、こ、この! へ、変態悪魔! ほ、本当に、わ、私の寝顔を、み、み、見てたの!? し、しかも、こ、こんな、格好で! さ、触ってもいい許可なんて、出してないわよ!」
俺、一応命の恩人なはずなのにな?
別にいいんだけどさ。罵倒されるのは心地良いし。そもそもアリアナはその間本当に寝てたみたいだから、その事を知らないし。
いつも通りアリアナを煽って怒らせたりして遊んでやろうとも思ったけど……アリアナが寝不足を言い訳に序列戦を挑まなかったりしたら嫌だから、その時は──
「申し訳ありません。アリアナ様の寝顔があまりにも可愛らしかったもので」
──そう言って、別の方向で遊んだんだよな。
1つの玩具なのに、無限の遊び方があるアリアナ。……本当に俺は良い主に召喚してもらったな。
「ッッッ、な、なにっ、言ってるのよ! か、可愛いって……可愛いって……可愛いって……わ、私、もう1回寝るから! そ、そこに居なさいよ! も、もう触っちゃダメだから! ……と、特別に、ね、寝顔を見るのは許可、してあげるけど、さ、触るのはもうダメだから!」
と言って、俺の腕から無理やり脱出したアリアナはベッドに戻り、再び布団に潜り込んでいった。
だからそれじゃあ寝顔を見ることなんて出来ないんだって。
別に本気で見ようとしてた訳じゃないから、いいんだけどさ。
というのが昨日帰った後にあった出来事だ。
「アリアナ様、朝ですよ。学園に行かなくてはでしょう。さっさとそこから出てきてください」
「あ、あんたが……うぅ、わ、分かってるわよ。……昨日、買っておいたもの、預けてるでしょ。朝食、出しなさい」
布団の中から命令をしてくるアリアナ。
金のことには気が付かないのかね?
別にどっちでもいいから、それならそれでいいんだけどさ。
「仕方ないですね。これでよろしかったでしょうか」
串焼きの棒を布団の中にいるアリアナの手に手渡した。
布団にタレが付くと汚いからか、顔を赤くしたまま、俺の方を見ないようにベッドから出てくるアリアナ。
……昔飼ってた犬を思い出すな。
頭でも撫でてあげようかな?
「え、えぇ、ありが……って! な、何よこれ!」
「どうか致しましたか? それは確かに昨日アリアナ様が買ったもののはずですが……」
「ぼ、棒だけじゃない! ここに付いてたはずのお肉はどこに行ったのよ!」
「お肉? あぁ! 朝からお肉などと、アリアナ様には少し重たいかなと思い、私が気を使い代わりに食べてあげたのですよ」
「あ、あ、あ、あんた……」
「あぁ、お礼などは結構ですよ。私はアリアナ様に忠誠を誓った悪魔として、当たり前のことをしただけですから」
「ふ、ふふっ……ふふふふふふっ……ほ、本当、い、いい度胸、してるわね」
声も体もどっちも震わせながらそう言ってくるアリアナ。
そのまま怒ってくるのかなと思って期待していたのだが……残念なことにアリアナは胸に手を置き、深呼吸をして怒りを抑えてしまった。
ただ、これはこれで明らかに怒りを我慢しましたよ、って感じだから、普通に面白かった。
「ほ、他に、あるでしょ。早く、出しなさい」
「今出したばかりだというのに、まだ必要なのですか……本当に仕方の無い方です──おっと危ない」
さっき手渡した串焼きの棒が俺の顔に向かって飛んできたから、余裕を持ってそれを避けた。
「手が滑ったわ」
「アリアナ様は本当におっちょこちょいな方ですね。ですが大丈夫ですよ。確かに手が滑っただけだったのか、飛んできた棒はかなり遅かったですからね。何があろうとあれに当たるだなんて未来は有り得ませんでしたから」
「ば、ばかぁ〜〜〜!」
寝起きだと言うのに、そのまま殴りかかってくるアリアナ。
元気だなぁ。
「おや、また手が滑ったのですか?」
「も、も〜〜〜!」
やっぱり、アリアナは面白いなぁ。
ぶっちゃけ、昨日俺の大事な玩具を盗まれたという出来事の苛立ちがまだ少し残ってたんだが……そんな気持ちはいつの間にか一気に消えて無くなっていた。
さっきとは別の意味で顔を真っ赤にさせて怒りながら殴りかかってくるアリアナのことを見ながら、思う。
取り返せて良かったな、と。




