第26話
まさか悪魔に転生してまで、借りパクをされそうになるとはな。
いや、そもそも貸してなんてねぇんだけど。
アリアナは俺の玩具であって、俺以外の誰にも遊ばせるつもりなんてない。
さて、そろそろソールが行動を起こすはずだが──
そこまで考えた所で、まるで俺がそう思うのを待っていたかのようなタイミングで【ダダダダダダ】という爆音が連続で鳴り響いた。
ソールが命令通り暴れてるんだろう。
それを合図に、俺はアリアナの元へと転移をした。
「な、なんだ貴様は!? ど、どこから──」
「一応聞いておく。それを盗んだ……誘拐した理由はなんだ?」
呑気にもまだ寝ている(俺のせいなんだが)アリアナを指差しながら、その場にいた40代くらいの男にそう聞いた。
どんな理由であれ、俺の玩具を盗んだんだ。許すわけは無いが、理由を知っておいて損は無いはずだからな。
さっきの……あー、ドードリオ……は違うな。あー、そうだ! ロードリオ家だロードリオ家。
またそこからの依頼なのか、別のところからの依頼なのか。気になるからな。
「だ、誰が貴様なんぞに! お、おい! 誰か! 侵入者だ! こいつを排除しろ!」
騒いでいる男を無視して、俺はアリアナに触れた。
分かってたことだが、危害を加えられた様子はなかった。
仮に目の前にいる男が一回りも二回りも年下であろう少女に邪なことをする変態だったんだとしても、俺の魔法が発動してないことから、問題ないことが理解できた。
……というか、今のは若干俺にも刺さるな。
アリアナと俺の年齢差は最早一回りとか二回りとかそういう次元の話じゃないし。……まぁ、俺は悪魔だし、例外だろ。
見た目だってずっと変わってないし、心はいつだって20代だ。
「な、何故誰も来ん……」
この爆音のせいじゃないか?
みんなそっちに向かったんだろ、多分。
陽動とか、考えなかったのかね?
どうでもいいけど。
取り敢えず、質問の続きといきたいところだが……まずは痛めつけないとか。
このままじゃ話してくれると思えないし。
手加減手加減──
「は? ……ぐぁぁぁぁっ! わ、儂の足が!?」
一瞬で男の傍に移動して、弁慶の泣き所を蹴った。
すると、俺はまた失敗してしまったのか、足が潰れる……どころか、そのままの勢いで切断されて吹き飛んでいってしまった。
……足の力って腕の力よりも3、4倍は強いっていうもんな。
腕の方の手加減にはさっき潰した組織のお陰で何となく慣れてきてたように感じてたから、大丈夫だと思ったんだが……ダメだったみたいだ。
まぁ、狙ったのは足だし、そもそも加減を少しくらい間違えても死ぬとは微塵も思ってなかったから、セーフかな。
「さっきの質問の続きだ。その令嬢を誘拐した理由はなんだ?」
いきなり片足が無くなったことで地面に尻をつけている男に向かってそう聞く。
「な、何を──ひっ!」
そのまま脅しの意味を込め、床を踏み抜いた。
悪魔の世界じゃ壊せる床も無かったから、なんだかんだ新鮮だ。
「い、依頼、されたんだ!」
「誰に?」
「い、言えば、み、見逃してくれるのか?」
「あぁ、好きに逃げていいぞ」
その足で逃げれるのかは知らないが。
まぁ、逃げることに挑戦することだけは許可してやる。
「……わ、分からない」
この男は今更そんな言い訳が通用すると思ってるのだろうか。
いや、仮に本当にこいつが知らなかったんだとしたら、別のやつに聞くだけだから、今すぐに殺すことになるけど。
「わ、儂が知らないってわけじゃない! ぜ、全員が知らないんだ! い、依頼を持ってきた相手が用心深い相手だったんだ! た、多分、かなりの地位を持ってるやつのはずだ。そ、そうじゃなきゃ、ここまで儂たちに依頼主の正体を探らせないことなんて出来るはずがない!」
「……依頼の内容はこれを誘拐して来いって内容だったのか?」
「あ、あぁ、アリアナ・チェントラッキオを無事に誘拐出来たことが確認でき次第、受け渡しの場所を向こうが指定してくる予定でもあった」
なら、ここにはアリアナを俺から盗もうとした犯人に繋がる証拠は何も無いってことか。
これが嘘を言ってなければ、だけど……恐らく嘘は言ってない。
勘でしかないが、俺のことを嵌めようとしているような悪意は残念ながら感じないから、恐らく間違ってないはずだ。
「も、もう儂は行ってもいいか?」
「……好きにしろ」
地面を這い蹲るようにして、勢いよく扉を体当たりするように開け、そのまま男は逃げていった。
「クソがクソがクソが! 必ず、後悔させてやるぞ!」
という言葉を小さく呟きながら。
アリアナの体を横抱きにして、持ち上げる。
分かってたことだが、軽い。
まぁ、この見た目で重かったりなんてしたら詐欺にも程があるしな。当たり前だ。
そのまま俺は空に飛び上がり、さっきまで中にいた建物を見下ろす。
少し視線を横にずらすと、命令通りソールが暴れているみたいだった。
どうせ悪魔だ。
死んでも復活する。
だから、俺はソールに何も伝えることなく、そのまま魔法を発動させることにした。
俺の玩具を盗んだんだ。
タダで済ませる訳が無いだろう。依頼主も、いつか必ず報いを受けさせてやるさ。だから、安心してお前らは先に地獄にでも行ってろ。
「ブラックホール」
ちなみにだが、本物じゃない。俺が勝手にそう名付けただけだ。
当たり前だけどな。あんなのを本当に作り出したら、俺自身ですらも大変なことになる。
……昔、悪魔の世界で実際に作ったんだよなぁ。
あの時は1秒にも満たない時間で直ぐに作り出したブラックホールを消したから何とかなったけど……その辺にいた俺以外の悪魔が一瞬で消滅したんだよな。
びっくりしたなぁ。
まぁ多分、実際のブラックホールよりもあれは凶悪なものだったんだと思う。俺の魔法で作ったものだし。……いやさ、そもそも実際のブラックホールをそんな詳しく知らないって言ったらそれまでなんだけど……あれって極端な話周りのものを吸い込む存在なんだろ? 悪魔達、別に吸い込まれてないのに消滅してるからな。
あれでより一層悪魔たちから俺への恐怖心が強まった気がする。
って、今はどうでもいいか。
「良い景色だ」
そんなことを考えている間にも、無事見渡す限り建物があったはずの場所周辺は無へと還った。
俺も、お気に入りの玩具を無事に取り戻せたし、帰るか。




