第25話
転移でアリアナの部屋へと戻ってきた。
その瞬間、俺はすぐに違和感に気がついた。
ベッドの前に移動し、布団をバッと捲る。
そこにアリアナの姿は無かった。
「……」
アリアナが自分で目を覚まして、自分の足でどこかに行った? ……ありえない。
アリアナが目を覚ましそうになったら、俺にそれが伝わるように魔法を掛けてある。
だから、考えられる理由なんて1つしかない。
アリアナは……誰かに連れ去られた。
「……」
なんで連れ去られてるっていうのに、目すら覚まさず……って、俺のせいか。
そういえば、ここを出る時、俺がアリアナの眠りを深くしたんだったな。
苛立ちが加速する。
アリアナが無事なのは分かってる。
俺はアリアナ程頭がお花畑な訳じゃない。
今日……いや、昨日の朝、暗殺者に狙われたばかりだというのに、アリアナになんの細工もせずに置いていくわけが無いだろう。
元から連れ去るつもりだったのか、本当は殺すつもりだったのかは知らないが、少なくとも、今のアリアナは俺以外には殺せないように細工がしてある。
ただ……そうか。持ち去るって選択肢をそもそも除外してしまってたな。まさか俺から泥棒を働く奴がいるなんて……何千年と悪魔を分からせてからは平和だったからな。ボケてたかね。
「……悪魔召喚、ソール」
ついさっき見たばかりの召喚門と共に、ソールが現れ、俺の前に頭を垂れる。
「なぁ。お前、借りパクってどう思う?」
「か、借り……? 申し訳ありません。私では神……貴方様の言葉を理解することすらも難しいようです」
「簡単に言うとな、俺の玩具が盗まれたんだよ」
「ッ……万死に値します」
「手伝え」
「はっ。全ては、貴方様の為に」
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Side:ソール
それは突然のことだった。
私の目の前に召喚門が現れた。
いつもならば特に珍しいことでは無いが……私はすぐに気がついた。
これは……これこそは……我が神の作り出した召喚門だということにっ!
神が……神が私を必要としている。神の役に立てる。
その事に胸を躍らせながら、私はそれ以上何も思考することなく、すぐさま門の中に入った。
その瞬間、懐かしの神の姿が(神の戯れか少し姿を変えているようですが、私には分かります)見えて来ると同時に、体が震えた。
私は神に対して直ぐに頭を垂れた。
神は……酷くお怒りになられていた。
話をお聞かせいただくに、生きる価値のない害虫が神の玩具を盗んだらしい。
許されることではなかった。
「ここですか」
私はゴミが密集する建物の前に立っていた。
神から言い渡されたことはただ1つ。
玩具を取り返すから、邪魔が入らないように暴れろ。但し建物とその周囲以外には被害を出すな、と。
「神からの命令……失敗は許されません。……ガトリング砲」
以前神が話していた武器です。
存在することすらおこがましい存在に神の邪魔をさせない為には、私が目立つことは必須。
故に、音を立て、誰が自分たちを狙っているのかを下等な生物でも分かるように、ガトリング砲を選びました。
私の得意とする属性魔法は創造ですからね。この程度、なんてことありません。
創造したガトリング砲を腕に抱え、建物に向けて放つ。
建物はすぐに蜂の巣になりました。
中からゾロゾロと下等な生物共が出てきますが、なんの意味もありません。建物同様、蜂の巣になり、絶命していきます。
さて、これで私に注意を集めることには成功しましたね。
ガトリング砲を止めます。
神の命令は暴れろ。
これだけで済ませていいはずがありません。
ガトリング砲を消滅させ(神に教えてもらった武器を下等生物に触らせる訳にはいかないから)建物の中に向かって歩きます。
そして、蜂の巣になり、倒れていたはずのゴミの中の1個に足を掴まれそうになったので、咄嗟にその汚い手を踏み潰しました。
神に作って頂いたこの体に私や神の許可なく触ろうとは……許される行為ではありませんね。
刀(これも神に教えてもらった武器)を作り出し、そのままゴミの首を切り落としました。
だというのに、そのゴミは首を再生させ、立ち上がってきました。
治療属性の魔法を得意とするゴミか。
……私の創造属性とは相性が悪いですね。
とはいえ、それは言い訳にしかなりません。
ゴミに負ける……ということも屈辱的ですが、何よりも、神からの命令を遂行できないなんてことになる訳にはいかないのです! 神に失望されでもしたら……あぁ、あぁ、あぁ、私はもう、生きていけないでしょう。
「はっ! さっきのはなんだ!? さっきのもお前が作った武器か!?」
神に失望されない為にも、早く壊さなくては。
喋ることが出来るだけのゴミの足を切り落とし、すぐに腕も切り落とし、最後に仕上げとして首から上を粉微塵にし、心臓部分を刀で突き刺した。
「なんっ、だァ!? 質問にはっ、答えてくれねぇのかァ!? つーか、悪魔っ! だよなぁっ!? 召喚主はどこだァ!?」
……平然と再生してくるゴミ。
なるほど。
どうやら私の思っていた以上に治療属性の魔法を得意としているようですね。
……私たち悪魔からすればこの程度は当たり前ですが、下等生物がこれほどまでとは……少なくとも、私が昔滅ぼした国にこのゴミ程治療属性を得意としていた魔法使いはいませんでしたね。
とはいえ、所詮は下等生物。
神により作られた私たち悪魔の治療属性を得意としている者のように、無限に再生するなんて芸当は出来ないでしょう。
なので、再生できなくなるまで切り刻む──
「「ッッ」」
不愉快なことに、私と下等生物は同時に息を飲んだ。
ただ、そんなことすぐにどうでも良くなった。
「な、なんだ!? この、気配は……!?」
「あぁ……これは……これこそは……神の……神の魔法……! ……あぁっ! これはっ! 私ごと……! ……アァッ、私は、私は、なんて幸せなのでしょうかっ! 神の、神の魔法で殺して頂けるなん──」
「てめぇ、何言って──」
その場にあった全てが消滅した。
まるで最初から何も存在しなかったかのように、無へと。




