第24話
さっきの幻術属性の魔法使いに冥土の土産として教えてもらったボスがいる部屋に向かって歩いていく。
「お邪魔しまーす」
そのまま、無造作に扉を開けた。
するとその瞬間、クロスボウの矢が飛んできた。
避けるか当たるか……少しだけ考えて、指で摘んで矢を止めた。
「……どこの組織のもんだ? 一体なんでうちを襲ってきやがった」
それと同時に、問いかけられる。
「どこの組織にも所属なんてしていない。襲った理由は……強いて言うなら、気まぐれかな」
アリアナに付き従うことにしたのだって、元を辿れば気まぐれだし、間違っては無いだろ。
一応、悪魔の世界から俺を解放してくれたという恩があるのは間違いないが……あの時、アリアナを殺して自由に生きるって選択肢も俺にはあったしな。
今はアリアナを殺すなんて考えられないけど。
あんなに面白い玩具とは思わなかった。……殺さなくてよかったな。過去の俺を褒め讃えたい気分だ。
「気まぐれ……だと? ……はっ。そうかよ。俺はうちの組織を1人で潰せるような化け物の気まぐれで死ぬのか」
言葉とは裏腹に、男に諦めている様子は無かった。
……んー。何か逆転の一手でも持ってんのかね。
「お前、使い魔はいるのか?」
ほう。
ここで使い魔の話が出るか。
正直もう期待してなかったんだが……まさか、持ってるのか? 自信のある使い魔を。
アリアナの話じゃ、貴族の血筋の使い魔が特別に強いのであって、貴族の血筋じゃない奴の使い魔は微妙みたいな感じだったけど……こいつは特別だったりするのか? それとも、まさか貴族の血が混じってる?
「いや、残念なことに俺の使い魔は使い物にならないほど弱くてな。出すだけ無駄だから、ほぼ持ってないようなもんだ」
一応は人間の振りをしてるわけだし、持っているということにしておいた。
「ふっ、そうか」
すると、勝ちを確信したような笑みを浮かべてくる男。
その瞬間、男の魔力が揺らぐ。
攻撃系の魔法を使おうとしている訳じゃないことは一目瞭然だ。
これは……そういうことでいいんだよな!?
気持ちが昂っていくのを感じる。
そして……そんな昂っていた俺の気持ちは一気に冷めた。
「……おい、何をやってるんだ」
「ははっ! 見て分からねぇのか!?」
分かるさ。分かるからこそ、聞いてるんだろうが。
違ってて欲しいという意味を込めてさ。
「こい! 悪魔! こいつを殺せ! 対価は俺以外のこの場にいる全員の命だ!」
「…………はぁ」
やっぱり、そうだよな。
俺が見間違えるわけないよな。悪魔を召喚する魔法を……あの召喚門をさ。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……見せつけられてきたんだから。
「随分と安い対価だなァ」
そして出てきたのは、犬型の悪魔だった。
俺の前世の知識的にいうなら、ケルベロスって名前が似合うと思う。頭が3つあるし。
「…………はぁ」
ソールとかが召喚されたら、まだ面白かったんだがな。
あいつが俺のこの擬態に気がつくのか気がつかないのか、ちょっと気になるし。
「まァ、いいぜェ。ちょうど暇してたしなァ」
……お前らが暇することとかあんのかよ。
いや、暇だから娯楽として殺し合いをしてるんだっけ。
「ははっ! どうだ! 1人でここに来たことを後悔して死ぬんだな!」
「契約成──」
犬型悪魔が鼻をスンスンと鳴らす。
「あァ? この臭い……ついさっき……」
そこで全ての頭が俺の方に固定された。
ふむ。まさか犬特有の鼻の良さで気が付かれるとはな。
「……人間を俺たちの世界に送ることなんて、あの方しか出来ないはず……ま、まさか……」
「お、おい! どうした!? 契約は成立したんじゃないのか!? 早くそいつを殺さないか!」
俺の擬態が上手いからか、まだ半信半疑という様子だが……こりゃ、時間の問題だな。
さっきこの組織の人間を送ったの、失敗だったかな。それが無ければ、多分気が付かれなかっただろうに。……いや、まさか俺相手に悪魔を召喚して戦わせようとするだなんて思ってなかったし、しかもその召喚した悪魔がたまたま犬型で鼻が良い悪魔だなんて予想できるわけが無いし、仕方ないか。
「ッッッッッ」
姿を元に戻した。
アリアナと一緒にいる時の姿とも違う、俺の本当の姿に戻した。
その瞬間、ケルベロスは腹を上に向け、服従のポーズを見せつけてきた。
「な、なんだ……その、姿は……人間じゃ、ない、のか……? あ、悪魔、だと……? な、なら! 召喚主はどこだ!? な、なんで悪魔が1人でいる!? そ、それに、悪魔が悪魔に対して服従……だと!? ど、どうなっている!?」
「アリアナ・チェントラッキオの暗殺の依頼についての証拠品を寄越せ」
「ッ」
「選択肢は無い。分かるな?」
殺気を放つ。
ケルベロスも巻き添えになってしまい体を震わせているが……運が悪かったと諦めてくれ。
「こ、ちら、です……」
「ケルベロス、それ、食っていいぞ」
「なっ、お、俺は──」
ぱくりと未だに体を震わせているケルベロスによってボスは食べられてしまった。ほぼ丸呑みだった。
「あ、あの」
ケルベロスが話しかけてくる。
珍しい。基本俺に話しかけてくる悪魔なんて、あっちの世界にいた頃はソールくらいしかいなかったぞ。
「なんだ?」
「け、ケルベロスとは、俺……わ、私の名前、でしょうか」
ケルベロスの3つある頭全ての瞳に期待の色が浮かんでいた。
心の中で呼んでいたのを、口にも出してたか。
「あぁ、既に名前があったりしたか?」
「い、いえ! 今日から、ケルベロスを名乗らせて頂きます! あ、ありがとうございます!」
そこでケルベロスの体が消えた。
悪魔の世界に帰ったんだろう。
結局、契約してなかったしな。召喚主が死んだことで強制送還だ。
俺も証拠品は手に入れたし、帰るか。
姿をアリアナの知っている悪魔の姿に戻し、転移でアリアナの部屋へと戻ってきた。
その瞬間、俺はすぐに違和感に気がついた。
ベッドの前に移動し、布団をバッと捲る。
そこにアリアナの姿は無かった。




