第20話
アリアナを適度に煽ったりして、殴りかかってくる遅い拳を避けたりしながら遊んでいると、思っていた以上に夕食を買うだけだったのに時間が掛かり、あっという間に夜になった。
やっぱり、楽しいことは時間が進むのが早いな。
「そこで大人しくしておくのよ、ラスト。……き、今日も、わ、私に変なことしちゃ、ダメなんだから! ま、まだ、心の準備が出来てない、から!」
「酷いですね。アリアナ様の体を好きにするというのは、私が貰った正当な対価なのですが……まぁ、良いでしょう。仕方がないですし、寝顔を一晩中見るだけにしておきますね。悪魔に睡眠など、必要ありませんから」
「ッ……そ、それも……ぅ、わ、分かったわよ。そ、それだけなら、許してあげるわ。で、でも、それ以上は絶対ダメだから! 私のような美少女の寝顔を見れるなんて、か、感謝することね!」
といいつつ、アリアナは顔を赤くしながら布団に潜り込んでしまった。
そして、あっという間に眠りについている様子だった。
……見てもいいんじゃないのかよ。
いや、どうせ外に出る予定だから、いいんだけど。
さて、さっさと朝の暗殺者のところにでも遊びに行くか。
その前に、アリアナが俺の分の夕食を買ってくれなかったから、まずはアリアナのポケットマネーをちょっとだけ借りて……あれ? 財布が無い。
どこに置きやがった?
まぁいい。
生物でなくたって現世に存在する全てのものには微量ながらも必ず魔力が存在している。
それを辿れば……って、こいつ、財布を抱えながら寝てやがる。
ばかで抜けてる所が多い子の癖に、変なところで警戒心が強いな。
とはいえ、俺を舐めすぎだな。
「スリープ」
アリアナの眠りを深くして、バッ、と俺は布団を捲った。
当然、アリアナが目を覚ますことは無い。
俺を出し抜こうだなんて、万年早いんだよ。
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アリアナのポケットマネーを少しだけ借りた後、俺は適当な屋台で買った串焼き片手に朝の暗殺者が今いる路地裏に存在していた1件の建物の前に来ていた。
当たり前だが、姿は人間の姿にしてある。
中には3人か。
「……」
どうでもいいことだが、この串焼き、昼にアリアナにあげた串焼きよりも不味いな。
「すみませーん。少しよろしいでしょうか〜」
串焼き片手にその建物の扉をノックしながら、ちゃんと中にいる暗殺者にも聞こえるような声でそう言った。
その瞬間、中にいた3人全員が一斉に別々の動きをする気配が感じられた。
1人はシンプルに扉の前に移動してきていて、もう2人は裏から外に出るというところまでは同じだが、そこで建物から離れる者と俺の背後を取る者に別れていた。
「……何か用か」
そして、扉が開くなり迷惑そうにそう聞かれた。
恐らく扉で見えていない左手には何らかの武器が握られているんだろう。
「用という程でも無いのですが……聞きたいことがあって来たのですよ」
「……なんだ」
「今日の朝、1人の令嬢を──」
そこまで言ったところで、扉を開いてきていた男からは頭を……背後を取ってきていた男からは心臓部分を突き刺された。
「まだ話をしている途中なのですが」
「ッ」
一気に俺から距離を取る2人の暗殺者。
「おや、何を驚く必要があるのですか? 弱点となり得る箇所に細工をするのは当然のことでは?」
本当は心臓も頭も弱点でもなんでも無いんだけど、一応今の俺の見た目は人間だからな。
そんな言い訳をしておいた。
細工をしたところで人間がこんなことをされて死なないとは思えないけど、実際今の俺は人間にしか見えないはずなのに、目の前で心臓と頭を刺されながらも生きているんだから、向こうとしては信じるしかないはずだ。
ま、こいつらが信じようが信じまいが──
「もう1人いるし、どの道殺すんだけどな」
あ、つい口調が元に戻ってしまった。
こいつらは丁寧なキャラのまま終わらせるつもりだったのに。
……今からでも間に合うか。
「さて、では続きです。今日の朝、1人の令嬢──」
そこまで言ったところで、俺の前後にいた男たちは一斉に地面を蹴り、別々の方向に逃げていった。
「……よく逃げる奴らだな。でも、もう逃がしてやるつもりは無いぞ? ……人間召喚」
その瞬間、俺の前に逃げ出したはずの2人の男が魔法陣と共に現れた。
「「ッ!?」」
「使い魔を召喚する魔法の応用ですよ。そういえば、あなた方は使い魔をお持ちではないのですか? 人間であるのならば、誰でも召喚出来るものと聞いていたのですが」
使い魔を召喚することは無理だと本能的に理解させられた俺だが、魔法の構築を利用できないとは思えなかったからな。ぶっつけ本番だが、上手くいって良かった。……ま、上手くいかないだなんて微塵も考えてなかったけど。
一応悪魔を召喚する魔法の方も利用してたりするんだが……それはいいか。
「……何者だ」
「おや、私の質問は無視ですか。まぁいいでしょう。それで、何者だ、という質問に対してですが……私のことは気にして頂かなくても大丈夫ですよ? ただ、私の聞いたことにだけ答えてくれれば良いのです。もう一度だけ、聞きますね。今日の朝──」
そこまで言ったところで、2人同時に短剣で切りかかってきた。
やっぱり、まずは心を折らないとか。
当然アリアナの拳よりは早いけど……別にどうでもいいか。俺からしたら同じだ。
さっさと終わらせよう。
「あ」
「ッッッ!?」
んー、ちょっと痛めつけるだけのつもりだったのに、人間の原型を残らせることなく、早くも1人処分しちまった。
……何千年も死んでも直ぐに復活する悪魔を相手にしてた弊害だな。
そもそも、人間と悪魔じゃ強度だって違いすぎるし。俺のせいじゃないな。うん。
むしろアリアナと挑むであろう序列戦の前に分かって良かったと今は喜ぼう。
「……ば、化け物」
ん? まだ絶望させたつもりなんて無かったんだけど、なんか勝手に残ったやつの心が折れてるぞ?
暗殺者なんだから、そういう訓練くらいしてるものだと思ってたんだが……違ったのかね。楽しみにしてたっていうのに。
今後は悪魔たちを見習うべきだな。こいつに今後なんて無いけど。
「それでは、次はちゃんと質問に答えてくださいね?」
笑顔を向けてあげながら、優しくそう言ってやる。
すると、今度はコクコクと怯えた瞳を俺に向けながらも素直に従ってくれた。
すっかり串焼きが冷めちまったよ。




