第18話
串焼きを食べるアリアナにせがまれ、さっき串焼きを取り出す時に使った魔法……空間属性の魔法についてのことを話し終えた。
「ほ、本当だったのね」
「私がアリアナ様に嘘をつくわけが無いじゃないですか」
「どの口が言ってんのよ。どの口が」
「この口ですね」
「……大丈夫、大丈夫よ、私。……深呼吸よ深呼吸」
胸に手を置いて言葉通り深呼吸をしているアリアナ。
また地団駄を踏みながら深呼吸をするという面白い光景を見たかったんだけどな。残念。
「……魔法について普通の悪魔よりも詳しいだけじゃなく、そんな凄い魔法まで使えるなんてね。……ほんと、性格以外は本当に当たりの悪魔ね。朝食は作れないけど」
「そんな……! 酷いですよ、アリアナ様。……私程に性格の良い悪魔など、私は見たことがないというのに……!」
実際、あの年中無休で殺し合いをしている悪魔共より俺の性格が良くない訳がないだろう。
もしも本気で俺が他の悪魔共より性格が良くないというのなら、アリアナの目は腐っているにも程があるぞ。
「……そうね。ある意味、性格は良いのかもね。ある意味」
「えぇ、そうでしょう?」
「嫌味よ! 嫌味! ……ま、まぁいいわ。それより、せっかくまだお昼休憩の時間があるのだから、今後私たちが挑むことになる序列戦についての話をするわよ。まず最初に言っておくのだけど、他の生徒達……どころか、教師をしている人達だって空間属性の魔法なんてものは知らない可能性があるわ」
ふむ。
もしもアリアナの言っていることが当たっていて、教師陣ですら知らないのであれば、本当に空間属性の魔法は失われている、もしくは人間たちは知らないという可能性が出てくるな。
この国が極端に遅れてるだけってのも否定はできないけど。
一応、何千年か前にチラッと現世の世界を悪魔の世界から見た時は1番発展してる国だったはずだけど……時間が経ってるから、今はなんとも言えないな。
調べることもできなくは無いけど……俺が現世の世界に来られたことで、もう世界中を好き勝手に見るってことは出来なくなってるから、ちょっとめんどくさい。
悪魔の世界にいることの唯一の利点だったな。
悪魔の世界と現世の世界は同じ世界であり、違う世界でもある。
だからこそ、なんだろう。
遠くにいる場所からなら全体を見渡せるが、近くに来たことによって全体は見渡せなくなった……的なさ。
「私が何を言いたいか、もう分かるわね? ラスト」
アリアナの声が聞こえてきて、思考を打ち切る。
「えぇ、もちろんでございます、アリアナ様。つまり、空間属性の魔法は卑怯だから使うな、ということですね? 流石はアリアナ様でございます。弱い癖にプライドだけは一丁前ですね!」
「ばかぁ〜〜〜! そ、そ、そ、そんなわけ! な、な、ないでしょ!!!」
声を震わせ怒った様子でやっぱり殴りかかってくるアリアナ。
当然そんな拳は全て避ける。
もう当たることはないってそろそろ学習したらいいのにな?
「落ち着いてください、アリアナ様。突然どうしたのですか? 甘いものでも食べますか?」
昨日ついでに何個か買っておいた甘味を取り出し、アリアナの前に見せてみた。
「た、食べるわけ……た、食べるわよ! よく考えたら、それも私のお金で買ったものじゃない! 食べるに決まってるでしょ! 元から私のなのよ!」
「お前のものは俺のもの、ということですか。なるほど。今日からゴリラ様とお呼びしても?」
「だ、だ、だ、誰がゴリラよ! こ、こんな可憐な美少女に向かってゴリラだなんて、ほ、本当、悪魔ってのは見る目がないわね!」
いるんだ。ゴリラ。
伝わらないと思って言ったのに。
いや、伝わってくれた方が面白いから、いいけど。
ぷりぷりと怒った様子で俺が手渡した甘味を食べているアリアナ。
甘味が美味しかったのか、一瞬幸せそうに顔を緩ませたかと思うと、直ぐに俺への怒りを思い出したのか、顔の緩みがなくなった。……それを1口食べる事に繰り返している。
やっぱりウケ狙いなのかな。
もしかして、笑ってあげない方が失礼か?
「……話の続きよ。変態発情スケベ悪魔」
そんなことを思っていると、また悪口が増えていた。
心地良い気分だ。
「当たり前だけど、相手が知らないってことは、当然対策のしようもないわ。だから、分からない殺しで序列700位くらいまでは一気に上がっていくわよ。……そこからは警戒されて対策されちゃうかもだけど……相手は常にラストの空間属性の魔法を警戒しなくちゃならなくなるから、それはそれでいいわ」
……言ってることは悪くないと思うんだけど……やっぱり目標が低い。低すぎる。
「も、もしかしたら、序列400位なんてものも夢じゃないかもね! 夢は高く大きくよ!」
……ちっちゃいんだって。
アリアナのちんちくりんな体と同じでさ。
「……あんた、今変なこと考えなかった?」
変なところで勘がいいな。
「私がアリアナ様に対してそのようなことを考えるとでも?」
「えぇ、思うわ。凄く思うわ。あんたなら変なことを考えるって。だから、殴るわね」
本当に殴りかかってくるアリアナ。
「これがパワハラというやつですか。……私はこんな主に召喚されてしまい、なんて不幸なのでしょうか。およよよよよ」
当然のように遅い拳は避けながら、わざとらしく泣き真似までしながら、俺はそう言った。
「ぱ、ぱわはらってのが何かは分からないけど、凄くバカにされた気がするわ!」
「凄いですね、アリアナ様。正解ですよ」
「も〜〜〜!」
ぱちぱちと手を叩きながらアリアナの拳を避けていると、既視感を感じた。
そういえば朝にも──あ、チャイムが鳴った。
つまり、アリアナはまた遅刻確定、と。
ドンマイ、アリアナ。
明日はいい事あるよ。
だって俺がいるんだもん。




