第14話
「ラスト」
休憩時間が10分と考えると、もう少しで授業が始まる……というところで、俺の玩具が……間違えた。アリアナが小さな声で俺の名前を呼んできた。
もろ色欲って意味の名前だし、完全に俺の名前だって認めた訳では無いけどな?
「なんでしょう」
「……もう分かってるかもだけど、外での授業もルーナリア先生が担当しているのよ」
ルーナリア……あぁ、あの老婆教師がそんな名前だったか。
……そうか。あれが担当するのか。
「最初の授業であんたがルーナリア先生の事を煽ったり、私が火に油を注いだりしたでしょ?」
アリアナは……まぁ、そうだな。マッチに火をつけるくらいのことはしてたか。
「私にいきなり本来分からないようなことを問題として出してきたり、恥をかかせようとしていたことは考えるまでもないわ」
「この授業でも何かをしてくると」
「……えぇ、何かっていうか……確実に、誰かと試合をさせられることになると思うわ」
「なるほど。それは大変ですね。……ですが、大丈夫ですよ、アリアナ様」
「ら、ラスト……そうね。今日からは私にだって使い魔が──」
「私が精一杯、後ろで応援をさせていただきますから。是非思う存分頑張ってください。弱い弱いアリアナ様のことです。当然期待はしません。仕方がないので、試合が終わった後、慰めることもしてあげますよ。特別ですよ?」
「……私の感動しそうになった気持ちを返してくれないかしら」
「ふむ。それはどうやって返せばよろし──」
そこまで言ったところで、アリアナが拳を振り上げ、俺の方に向かって振り下ろしているのが見えた。
「だから! なんで避けるのよ!」
「今日の朝にも申し上げました通り、全くこれっぽっちも、本当に驚くくらい痛くはなさそうでしたが、当たってしまうとアリアナ様の手が痛くなってしまうと思ったので、避けさせて頂きました。……自らの主に言われるまでもなくこんな気を使うことが出来るなんて……全く、私はアリアナ様には勿体ない悪魔ですね」
やれやれ、といった様子を見せてやりながら、そう言った。
すると──
「ッ〜〜〜!」
顔を真っ赤にして、とうとうアリアナは蹴りにまで手を出してきた。蹴りなのに手……なんてくだらないことを考える暇があるほど、避けるのは簡単だった。
「もう! 助けてくれたことなんて! 関係! 無いわ! あ、あんたのさっきからの言動で全部チャラよ!」
俺を蹴ったり殴ろうとする体を止めることなく、そう言ってくるアリアナ。
「なんて酷いことをおっしゃるのでしょうか……まさか私の召喚主様が感謝もできないような人間だったとは……私、がっかりですよ」
「だ、だから〜〜〜!」
そこで学園に鳴り響く音……もうチャイムでいいか。俺の知ってるあの慣れ親しんだ音のチャイムとは似ても似つかないけど。
とにかく、チャイムが鳴った。
「アリアナ様、授業が始まりますよ」
「わ、かってるわよ!」
そう返事をして、顔を真っ赤にさせたまま、老婆教師の方を向くアリアナ。
そして俺の耳には──
「なぁ、見たかよ、今の」
「あぁ、あいつ、使い魔じゃなく、召喚した悪魔ですら手懐けられてないみたいだぞ」
そんな雑音が何個か入ってきていた。
いくら耳のいいアリアナとはいえ、外にいることやかなり小声で話をしていることが関係して、流石に聞こえてはいないみたいだった。
「……」
「な、なんだ!?」
「な、何やってんだよ!?」
とはいえ、一応は俺の主人であり、大事な玩具の悪口だ。
雑音を出していた連中の中の土属性と風属性に適正がある人間2人の魔力に少し力を込めた俺の魔力を無理やり混ぜ込んで暴走させてやった。
面白そうだったし。
「な、何よあれ」
アリアナの視線を追うと……いや、別に追うまでもなく、暴走した土属性の魔法で作られたであろう土や砂利のつぶてが混ざった15メートルくらいはありそうな竜巻がそこにはあった。
んー。他人の魔法に俺の魔力を混ぜて暴走させるなんて……理論上できることは分かってたけど、こんなこと初めてやったから、流石にこれは予想外だなぁ。
魔力を暴走させた奴らの反応を見る限り、2人合わさっても本来こんな威力の魔法を放てる実力なんて無いみたいだし、俺の魔力が合わさったことによって強化でもされた影響かね。
また1つ勉強になったな。
「みなさん! 学園の中に! 早く逃げてください!」
そんなことを思っていると、老婆教師が焦った様子でそう叫んでいた。
結構な歳なのに声を荒らげて辛そうだ。可哀想に。
「ら、ラスト、私達も早く……あれ? そういえば、私たちには一切風の影響すらも無いわね」
「主人を守るのも、私の仕事ですから」
「ッ、あ、ありが……って! か、感謝なんてしないわよ!? さっきのあんたの態度でチャラよチャラ! たまに飛んでくるつぶてからも守ってくれてるみたいだし、助かってはいるけど……チャラよ! そ、それにそもそも、さっきあんた私1人に戦わせようとしてたじゃない!」
「これ程までにアリアナ様に尽くしているというのに……酷い話です。私、泣いてしまいそうですよ」
「笑顔で言ってんじゃないわよ! この変態! 発情悪魔! 早く逃げるわよ!」
この竜巻が発生した元凶が俺だって言ったら、どういう反応するんだろうな。
それも気になるけど……まぁ、今はいいか。
大人しく腕を掴んで引っ張ってくるアリアナに身を任せることにした。




