第13話
1限目……という表現でいいのかは知らないが、少なくとも最初の授業が終わったみたいで、また学園中に響き渡る音が鳴り、休み時間になった。
「次の授業が外での授業ですか?」
「その次よ」
その授業もあの老婆がやんのかね。
仮にそうだとしたら、さっきの感じからしても、アリアナは誰かと試合をさせられることになりそうだし、楽しみだな。
試合となれば当然相手は使い魔だとかを出してくるだろうしさ。そういう意味でも、楽しみだ。
アリアナの実力もさっさと把握しておきたいしな。
暗殺者には逃げられたから、まだアリアナの実力を見られてないし。
「……なんでニヤニヤしてんのよ」
ジトーっとした目を向けてきながら、アリアナはそう聞いてきた。
口角が上がってたか。
「これは失礼しました。先程の老婆教師の醜態を思い出していたのですよ」
「……ふふっ。ここじゃあんまり大きな声では言えないけど、確かにあれは傑作だったわね。改めて言うけど、よくやったわ、ラスト。流石私の使い魔よ」
「えぇ、私はアリアナ様の使い魔というただ一点を除き、完璧ですから」
「……ほんと、いちいち腹の立つ悪魔ね。……ま、まぁ、今だけは、許してあげるわ。助けられもしたからね。それに私は大人だもの」
「大人……ですか。……ふっ」
「な、何笑って……ど、どこ見て笑ってんのよ! お、大人でしょ!」
ついさっきまで機嫌が良かったのが嘘みたいに顔を真っ赤にして怒っているアリアナ。
……本当に変なところに視線を向けたりなんかはしてないから、完全なアリアナの被害妄想でしかないんだが……まぁ、面白いから訂正しなくていいか。
まだ何かを言おうとしているアリアナの口を塞ぐようにして、学園全体に鳴り響く音……俺が元いた世界で言うところのチャイムが鳴った。
それと同時にさっきの老婆教師が教室に帰ってきた。
休憩時間が終わったみたいだ。
休憩時間は10分ってところか。まぁ、普通だな。
「では、授業を始めます」
そして、また老婆教師の低レベルな授業が始まった。
─────────────────────
やっと終わったか。
今回はアリアナが当てられることも無かったし、そういう意味でも本当に退屈な授業だったな。
「行くわよ、ラスト」
ぞろぞろと他の生徒達と一緒に外へ向かって歩く中、アリアナが口を開いてきた。
「そういえば、今更なんだけど、ラスト」
「なんでしょうか」
「あんた、魔法に詳しいの? 悪魔が魔法に詳しいだなんて、聞いた事無いのだけど」
ふむ。
料理が出来る悪魔がいる、という件からまさかとは思っていたが……アリアナの言葉を聞く限り、魔法の方に関してはちゃんと詳しくないみたいだな。
いや、他の悪魔が魔法を使えないって訳じゃないぞ? 当たり前だが。それはアリアナだって分かっているはずだ。
ただ、あいつらは年がら年中娯楽として殺し合いをしている頭のおかしい野郎どもだ。
当然、俺と違って魔法を研究している暇なんてあるわけがない。
魔法に詳しいわけが無いんだよ。
それなのに魔法を使える理由は……分かりやすく言えば、感覚派ってやつなんだろうな。
頭で魔法のことを理解して使っている訳じゃないからこそ、他人に説明なんて出来ないって事なんだろう。
「あの程度、一般常識ですよ」
それも俺にとってはかなり劣った知識だ。
「……私、知らなかったのだけど?」
「アリアナ様ですから。仕方ないですよ」
「ッ、そ、それ、どういう意味かしら」
口元をピクピクと痙攣させながら、怒った様子でありつつも、無理をした笑顔を浮かべてアリアナはそう聞いてきた。
さっきの満面の笑みが嘘みたいだな。
「そのままの意味ですよ」
別にアリアナがというより、この世界の人類が、なんだけど……まぁ、わざわざそこまで言ってやる必要も無いか。
「……ふ、ふふ……お、落ち着くのよ、私。ここで怒ったら、またさっきの二の舞になるわ。……助けられた助けられた……こんなやつに……助けられた。……こんなやつでも、助けられたんだから、今は、今は許すのよ、私」
ブツブツと視線を下に下げ小さく何かを言っているアリアナ。
何かって言うか……まぁ、全部聞こえてるんだけどな。今回は面白そうな雰囲気を感じて、ちゃんと耳を傾けてたから。
やっぱり、アリアナは面白いなぁ。
あと3年もして、体が成長しきったら、こっそりと人を不老にする魔法でも掛けてやるか。
こんな面白い玩具、たかだか人間の寿命で死なせるのは勿体なすぎる。
一生、俺の玩具でいてもらわないと。




