第12話
流石は異世界と言うべきか、授業の内容が魔法だ。
アリアナに今日の予定を聞いたところ、最初に魔法の座学、次に外に出て習った魔法、もしくは得意な魔法の実践、たまに実際に試合をすることもあるんだとか。
そして、最後に貴族として必要なことの座学で終わるらしい。
ずっと俺は独学で長い長い……本当に気が遠くなるような時間1人で魔法を学んできていたから、こうやって誰かが魔法のことを教えているところを見ること自体はものすごく新鮮だ。
ただ、あくまでそれだけだ。
だって……人類と言うべきなのか、人間と言うべきなのか、この学園と言うべきなのか、俺からしたらレベルが低すぎる。
教卓に立ち、生徒たちに魔法を教えている体調を持ち直した様子の老婆が今言っていることなんて、俺が悪魔に転生して2000年した頃くらいにはもう通り過ぎているような技術だ。
退屈すぎて欠伸が出てしまう。
悪魔の体故に睡眠なんて取る必要が無いにも関わらず、だ。
そんな俺の様子が癪に障ったのか、そもそもさっきのアリアナの態度が気に食わなかったからなのか、教卓に立っていた老婆がこっちに、キッとした視線を向けてきたかと思うと──
「では、ミス・チェントラッキオに次の問題を答えてもらいましょう」
そう言ってきた。
そんな言葉に、アリアナは酷く動揺しているようだった。
……なんだ? こいつ、まさか馬鹿なのか?
「魔法を改良する際、その魔法に違う属性を付与する方法を答えてください。今までの私の授業をちゃんと聞いていたのなら、分かるはずですよ」
魔法の改良に属性を付与か。
魔法の改良は炎の魔法とか水の魔法とか、属性魔法(俺が勝手に名付けた)を使いながら行うことによって、魔力にその属性が一時的に付与されて、最早改良というか改造……魔改造が出来るようになるんだけど……さっきまでの授業的に多分これは違う気がする。このことに俺が気がついたのでさえ悪魔に転生して5000年位が経った頃だし。
完全に盲点だったんだよなぁ。まさか魔法を使いながら魔法の改良をするなんて、普通思いつくわけが無いしさ。俺が気がついたのは、馬鹿みたいな時間をずっと暇つぶしとして魔法にだけ費やしてたからこそだ。
気がついた時だって「何となくやってみるか」っていう気分転換的な気まぐれだったし。
まぁ、人類は無駄に数がいるし、もしかしたらこの方法に気がついている可能性も……って、少なくともこの国や学園では無いか。
さっきの授業内容で断言出来るわ。
「……そんなの、今までの授業をちゃんと聞いてたって分かるわけないじゃない。……習ってないんだから」
俺が懐かしいこと(悪魔の世界に閉じ込められていた時の思い出だから、良い思い出ではない)を思い出していると、隣のアリアナは小声でそんな愚痴を吐いていた。
ふむ。周りの反応を見る限り、多分アリアナが馬鹿って訳じゃなく、本当にこの時点で分かるはずもないような問題を出されているってことなんだろう。
俺も少し考えてみるか。
……そうだな。レベルをかなり落とすとするのなら、多分答えは──
「2人以上の同じ属性魔法を得意とする者同士で混ぜ合わせた一定量以上の魔力を使う、とかじゃないかね」
俺が本当に最初の頃に使っていた方法だ。
他の悪魔に協力させてたんだよな。
あの悪魔達は俺が作った存在ではあるけど、最早俺からは切り離され独立した存在だ。
当然、1人1人に得意不得意がある。
属性魔法だってそうだ。
ちなみにだが、俺は魔法に不得意な属性なんて無い。だからこそ、色んな属性を得意とした悪魔が作られるんだろうな。
俺が作った存在なのに俺の不得意な属性魔法を得意としてたりしたらおかしな話だし。
「……ふ、2人以上の同じ属性魔法を得意とする者同士で混ぜ合わせた一定以上の魔力を使い、魔法の改良をすることによって、改良する魔法に属性を付与することが出来ますわ」
さっきわざわざ口に出して言ってやったのは、確かにアリアナを助ける意思が無かったのかと言われると首を振らざるを得ないが、ほとんどそのまま言いやがったな。
属性魔法とか、俺が勝手に命名したものなんだが……いいのか?
まぁ、単純な命名だし、こっちの世界でも同じ呼び方なのか。
それで、老婆先生は黙って何も言ってくれないが……結局どっちなんだ?
正解なのか、不正解なのか。
ほら、アリアナも言ってはみたもののって感じで不安そうにしてるんだから、早く言ってくれよ。
「……正解、です。よく復習ができていますね。……ミス・チェントラッキオ」
「その程度、当然ですわ」
老婆の言葉に、アリアナは周りに対しても言っているような感じでそう返していた。
当然、使い魔も召喚できない相手と内心馬鹿にしている相手にそんなことを言われれば、思うところがない訳がなく、悔しそうにしているものが殆どだった。
本人的には上手く隠しているつもりなのかもだけど、明らかに顔を赤くして苛立っている様子の者までいた。
「ラスト、ありがとっ」
その様子を見て、腰を下ろしたアリアナは上機嫌な様子で俺にさっきの笑顔を向けてきながら、そう言ってきた。
「……気にしないでください。私はアリアナ様の忠実な僕ですからね。当然のことです」
「……忠実な僕はもっと主人のことを慕っていると思うのだけど……まぁいいわ。助けられたことは事実だもの」
ま、これで少しはアリアナの中で俺の評価が上がったかな。
流石にもう役立たずの悪魔とは思われてないはずだ。
そもそもさっき命を救ってるしな。




