第2話 〜酒瓶と私…〜4
Fourth
梅雨が明け初夏が始まり、老若男女問わず皆んなが好きな夏祭りが始まる。
私も夏祭りは好きだ。
「いらっしゃいませー!」
居酒屋で働く私
「いらっしゃい!缶ビール、缶チューハイ、ソフトドリンクなんでもあるよー」
大将が外に出て販売をしている
「焼き鳥に焼きそば、スイカもありますよー!
どうですかー?」
私もお店の外へ出て売り子をする
「手羽先2パック頂戴」
常連さんがお子さんと買いに来てくれた
大将が看板にメインメニューと書いて
手羽先を販売してくれている。
「手羽先2パックありがとうございます」
「おう!嬢ちゃん最近可愛くなったねー」
常連さんが褒めてくる
「そうなんだよ!なんか美人になってきてるだろ!店に出勤してくる時、客か間違えてるんだよー。あれ?別人か?ってな」
大将は褒めてるのか分からない
「ちょっとー褒めても何も出ません!元から可愛いのですから」
私も茶化して対応する
「そうださっき、息子さん夫婦に会ったよ 大将に孫の顔見せに来たってよ」
「ホントけ!久しぶりに孫娘の顔が見れるなー」
大将と常連さんのやり取りは見ていてなんだか和む
「こんにちは!息子さん夫婦見ましたよ」
業者さんが来た
「おー!あんちゃん!今、聞いたよ!楽しみだなー」
渋い顔渋い声なのに、嬉しい時の顔はかわいい
「お孫さんに会えるから顔がデレデレですね」
「わっはっはー!別にそんなんじゃ…」
大将がニコニコしながら恥ずかしそうに言う
常連さんや業者さんとの毎日の日常
「あんちゃん酒瓶裏に置いといたから、持って行ってな!」
大将が業者さんにお願いをする
「はい!」
業者さんが笑顔で挨拶をする
こんな風景もいつもの光景
少し変わった事は、業者さんとのやり取りだ
私はさりげなく業者さんに手土産を渡す
業者さんもニコッと笑顔で「ありがとう」と言って仕事に向かう
酒瓶を持って行く後ろ姿が私は好きだ
酒瓶を軽トラックに乗せ込んで、また私に笑顔を見せる業者さん
出発する
業者さんを見送る私…
…
私は進展が見えないこの状況をもどかしく思っていた
手土産を渡すだけの仲って…
私はいつものように実家のリビングでうなだれていたら、双子の弟妹が帰宅して一言
「お姉ちゃんさー、海苔の入った卵焼き作ってよ!」
弟が帰宅と同時に私を見ては作ってくれとねだってくる
「私も食べたい」
妹も便乗して言ってくる
私は仕方なくも嬉しく弟妹の為に海苔の入った卵焼きを作ってあげる
「ご飯の前にお風呂入りなさい」
母が弟妹に言い聞かせる
素直に従う弟妹
数時間が経ち…
「美味しい!やっぱお姉ちゃんの卵焼きうまい」
弟がはしゃぐ
「私が作ってもこんなならないよ!」
妹が私の作った卵焼きを褒めてくれる
「美味いなー!」
父はなんでも美味いなーッと答える
母が作っても私や妹が作っても…
いつもの日常…私は嫌いじゃない
その夜
母と一緒に食器を片付ける私
私は心の内を母に話した
業者さんのこと
これからのこと
母は私が話す言葉をただただ聞いてくれていた
「うんうん」と笑顔で…
私の心の中のモヤモヤを母は知っていたかのように聞いてくれている
私が話す事を終えるまで待っていたのか
母は一言言った
「大丈夫、頑張ってるの見てるから」
母の一言に私は驚きを隠せなかった
優しくて静かな母の一言、お母さんの言葉に私は人生の先輩と感じた。同時に安心もした。
母も若い時に父と出逢い恋愛をし結婚をし、私たちを産み家庭を作った。
お母さんの言葉が、私の背中を押してくれた。
…
翌日、私は業者さんに自分の心の内を話した。
業者さんは驚いていた。
(やっぱそうだよな)
私は拒否される覚悟をした
私の心の内を知った業者さんは
驚いたと同時に満面の笑みになった
「僕も好きです」
即答した業者さん
私は拒否される覚悟で告白をした
関係が気まずくなってお店を辞める覚悟もした
酒屋さんが家の近所で、これから前を通れないのも覚悟をした
そんな悩みを全部吹き飛ばしてくれる業者さんの言葉…
「僕も好きです」
私の悩みはこの言葉で全て吹き飛んだ…
と、同時に業者さんが私の全てになった。