ゲームの裏側へ
「……ようこそ、テストプレイヤーの皆さん」
その声は冷たく、機械的だった。
白兎とメジロは、目の前の光景に息を呑んだ。
そこは無機質な白い空間だった。ゲームの世界とは明らかに違う、まるで研究施設の内部のような場所。
「……ここは、どこだ?」
白兎が冷静に周囲を観察する。壁は白く光を放ち、足元には無数のデータが浮かび上がるような演出。
メジロは白兎の腕を掴み、不安そうに呟いた。
「白兎くん……これ、本当にゲームなの?」
(……ゲームの中にいるはずなのに、妙に”リアル”だ)
白兎の予測能力が、本能的に警告を発していた。
そして——
彼らの前に、一人の男が姿を現した。
男は白衣をまとい、細長い眼鏡をかけていた。
「ようこそ、選ばれし者たちよ」
「……誰だ?」
白兎が問いかけると、男は微笑を浮かべた。
「私は”管理者”だ。君たちは、通常のプレイヤーとは異なる特別な存在——“テストプレイヤー”として選ばれた」
「テストプレイヤー?」
メジロが困惑した表情を浮かべる。
「そんなの、聞いたことないよ!干支の国は、正式にサービスが開始されたゲームのはず——」
「ふふ……確かに、表向きはな」
男は指を鳴らした。
すると、壁に巨大なモニターが浮かび上がり、無数のデータが流れ始めた。
——“プロジェクト《干支の国》:フェーズ2”
「これは……?」
白兎が画面を睨む。
「……このゲームは、単なるエンターテインメントではない。これは”人間の意識をデータ化し、新たな進化を遂げるための実験”なのだ」
男の言葉に、メジロが息を呑む。
「えっ……?つまり、このゲームは……」
「そう。“人間の意識”をデータ化し、干支の力を通じて新たな可能性を探るプロジェクト。VRMMOという形をとっているが、これは”実験場”にすぎない」
白兎は静かに男を見据えた。
「……俺たちが、モルモットだと?」
「そうは言わないさ。ただ……君たちは、“想定外の存在”だった」
男の視線が、白兎に向けられる。
「特に君——城野白兎。君の予測能力は、この世界のシステムすら超越しつつある」
白兎の眉がわずかに動く。
「……何が言いたい?」
「君の能力は、本来このゲームに”存在しないはずのもの”なんだよ」
「……どういう意味だ?」
「それを知りたければ——“次の試練”を突破することだ」
男は指を鳴らす。
次の瞬間、白兎とメジロの視界が再び歪んだ。
——《試練フィールドへ転送中……》
目の前の景色が、一瞬で変わった。
「……っ!?」
白兎とメジロは、広大な石造りの闘技場に立っていた。
「な、何が起こったの!?」
メジロが驚きながら周囲を見回す。
「……どうやら、戦わされるみたいだな」
白兎が視線を前に向けると、そこには——
巨大な**“白虎”**が、彼らを睨んでいた。
——《干支守護獣・白虎》が出現しました
「白虎……!?」
白兎はすぐに構えを取る。
(干支の守護獣……まさか、こんな形で出てくるとは)
「……白兎くん、どうする?」
「決まってる。こいつを倒して、“真実”に近づく」
白虎が低く唸り声を上げた。
次の瞬間——
「——来る!」
白虎が、一瞬で間合いを詰めてきた。
「——ッ!」
白兎は直感で横へ回避。
白虎の爪が地面を砕き、砂埃が舞い上がる。
(速い……!)
ガルーダのフェーズ2とは違う。白虎の動きは、まるで”狙いを定めた暗殺者”のようだった。
——そして、白兎は気づく。
(……こいつ、俺の”動き”を読んでいる)
今までの戦いは、相手の動きを予測して先手を取ることで勝ってきた。
しかし、白虎は逆に**“白兎の行動を先読みしている”。**
「……面白い」
白兎の目が鋭く光る。
「なら、試してみるか……“俺の限界を”」
“予測” vs “予測”の戦いが、今始まる——。