反撃の一閃〜そして始まりの異変〜
「メジロ、お前の魔法でガルーダの動きを封じることはできるか?」
「えっ……一瞬ならできるかも!」
「なら、それでいい。俺がとどめを刺す」
白兎の目は鋭く、決意に満ちていた。
予測だけでは追いつけない。ならば、確実に仕留められる”一瞬”を作るしかない——。
メジロは頷くと、すぐに詠唱を始めた。
「《疾風拘束》!」
メジロが風を操り、ガルーダの足元に渦を生じさせる。
ガルーダは一瞬バランスを崩した——その隙を、白兎は見逃さなかった。
「……今だ!」
彼は全力で地を蹴り、ガルーダへと跳躍した。
「《兎影一閃》——!」
短剣が閃き、ガルーダの胸を貫く——その瞬間、白兎の視界が”乱れた”。
——!!
(……なに?)
ガルーダを斬るはずだった短剣は、空を裂くだけだった。
次の瞬間、世界が”揺れた”。
——《重大なシステムエラーが発生しました》
突然、白兎とメジロの視界に赤い警告ウィンドウが表示された。
「……は?」
ゲームではありえないほどの強制的な揺れ。
空間が歪み、ガルーダの身体が”バグったように”ぶれ始める。
「な、なにこれ!?バグ??」
メジロが焦るが、白兎はすぐに”違和感”に気づいた。
「……違う、これはただのバグじゃない」
——“何かが変わる”。
直感が警鐘を鳴らしていた。
ガルーダの姿が次第に変化し、体を覆う風が黒ずんでいく。
——《管理外個体・ガルーダ・オーバーフォーム》が発生しました。
システムメッセージが変化する。
「……まずい」
白兎はすぐにメジロを後ろへ引き寄せた。
「え、え!?なになに!?ガルーダ強化されてない!?」
「……これは、俺たちが予想していた戦いじゃない」
白兎の予測能力が”通じない”未知の展開。
ガルーダが、システムの枠を超えて暴走しようとしていた。
〜その時、白兎の目の前にもう一つの警告ウィンドウが現れる。
——《強制ログアウト不可》
「……なに?」
メジロもすぐに気づき、目を丸くする。
「えっ、強制ログアウト不可って……やばくない!?」
「……どういうことだ」
VRMMOにおいて、強制ログアウトができないのは重大なバグ、あるいは意図的なシステム障害を意味する。
このゲームの運営は、決してそんなリスクを放置するような企業ではない。
つまり——
「“意図的に”何かが起こっている」
白兎の声に、メジロが息を呑む。
「ど、どうしよう……!?」
「……まずは、目の前の敵を倒すしかない」
白兎は短剣を握りしめ、暴走するガルーダを睨んだ。
「……こいつを倒せば、何かわかるかもしれない」
「ギャアアアアアア!!」
ガルーダの体が黒い風に包まれ、一気に二人へと襲いかかる。
「くっ……!」
白兎は《影縫い》を発動しようとするが——スキルが発動しない。
——《システムエラー:スキル使用制限》
「スキルが……使えない!?」
「ええっ!?じゃあ、どうやって戦うの!?」
「……くそ」
白兎は瞬時に判断し、“通常攻撃だけ”で戦う決断をする。
(俺にはまだ”予測”がある……スキルがなくても、戦えるはず)
彼はガルーダの猛攻を紙一重で避けながら、機をうかがう。
(動きは、さっきよりさらに速い……だが、一定のパターンはある)
ガルーダの攻撃はシステムを超えた暴走状態とはいえ、元々のAIの動きは残っている。
白兎は全神経を集中させ、その動きの”核”を探った。
(こいつは、一定の間隔で急降下攻撃を繰り返す……次の突進の後、必ず隙が生まれる)
「メジロ、次の攻撃が終わったら、一斉射撃しろ」
「え!?……わ、わかった!」
ガルーダが最後の急降下を仕掛けた瞬間——
「今だ!!」
白兎は地面を蹴り、横へ大きく跳躍。
同時に、メジロが空中から最大火力の矢を放つ。
「《蒼空の一矢》!!」
青い光がガルーダの頭部に直撃し、暴走状態のエネルギーが乱れる。
「……とどめだ」
白兎は迷いなく、ガルーダの胸へ短剣を突き立てた。
——《暴走個体・ガルーダを討伐しました》
直後、黒いエネルギーがガルーダの体から噴き出し——
周囲の景色が、一瞬で消えた。
白兎の視界が暗転し、次の瞬間——
そこには見知らぬ”研究室”のような空間が広がっていた。
「……なんだ、ここは?」
メジロと白兎は、確かにVRMMO《干支の国》をプレイしていた。
しかし、今目の前に広がるのは、“ゲームの中”とは思えない、白く無機質な空間だった。
「白兎くん……これ、本当にゲームなの……?」
メジロの声が震える。
(これは……ただのゲームじゃない?)
白兎の胸に、“ある疑問”が浮かぶ。
その時——
《ようこそ、テストプレイヤーの皆さん》
突如、謎の声が響いた。
「……誰だ?」
白兎の問いかけに答えるように、暗闇の中から一つの人影が現れる。
「君たちは、すでに”干支の国”の秘密に触れてしまった」
次の瞬間、警告のアラートが鳴り響き——
“物語は、新たな局面へと突入する”