第七話
雷聖side...
「あいつどっか怪我でもしてるのか?診療所で泊まってるとかありえねぇ。金がないのか?あのくらいの技術を持ってるやつが金に困ることはねぇだろし…」
昨日役所で別れるとき雷聖の宿の方を待ち合わせにしようとしたのだが分からないと少年が言ったので少年が泊まっているところを聞くと村の診療所と言った。そして少年と別れてから雷聖の悩みは尽きなかった。
怪我をしている場合自分と少年を巻き込む形で下手をすれば死ぬことになる。よくても少年の怪我を悪化させる可能性もある。
金がないということなら何も問題はないのだが。悩んでいるうちに朝になり診療所に少年を迎えにいく頃合になったので今は診療所に向かっているところだ。
というかあいつ無口すぎるだろ。まだ名前教えてもらってねぇーし!!泊まってるところ聞き出すだけでも時間結構かかったし!
あこが診療所か。入り口のところに誰か立ってるな、あいつじゃなさそうだし医者か?
診療所の入り口には先生が立っており誰かを探すようにあちらこちらをキョロキョロと見回して、雷聖の方を見て目を止めた。そして雷聖が診療所の入り口のところまで行く前に先生も歩を進めてきた。
「あ~、このぐらいの無口なガキ泊まってますか?」
とりあえずできるだけ丁寧な言葉遣いをした雷聖。雷聖の中では少年はここに居るという簡潔な答えを期待している。
が、先生は雷聖に目を合わせると
「あなたですか」
「はいっ?」
先生の目は何故か力が入り、もはや睨んでいるとしか言い様がない状態だ。
「あなたが虎侍君をかどわかして無理矢理…」
「ちょ、ちょっと待て、どこでどういう誤解をしてるんだよ!」
危ない方向へ行こうとしてるところを慌てて止める。雷聖にはそんな趣味はない。断じて。
だが先生はまだ睨み続ける。
「虎侍君は記憶喪失なんですよ!それなのに魔物退治なんて…どんな酷いことをしたんですか!!」
虎侍ってのは、あいつのことか。酷いことって確かに少し混乱してるところで強引に依頼に巻き込んだけど…ん?今とんでもないことを聞いたような…
「は!??記憶喪失?!!!」
「そうですよ!虎侍君は8日前に瓦が頭にぶつかって記憶喪失になったんですよ!!旋術だって5日前にできたところです!!」
「い、5日前って、どいうことだよ!俺は聞いてねぇぞ!!」
少しずつ視線が集まってくるのが先生と雷聖は気付き
「とりあえず中で話しましょうか」
「そうだな」
診療所の中へ入っていく2人。中に入って気になったことを先生に問う。
「ところで、あいつ…虎侍だっけ?どこに居るんだ?」
まさか、逃げたってことはねぇだろうしな。
「虎侍君には奥の倉庫で荷物の整理をしてもらってますよ。あなたが来たら教えると言ってあるので私が呼ばなければ来ませんよ」
随分と用意周到だな。
「そうか。で、あい…虎侍はあんたに何て言ったんだ?俺はただ依頼を一緒にする予定だぞ」
「ええ、あなたに誘われて依頼に行くことは聞きました」
「だったらなんであんなことになってるんだ?」
「虎侍君は5日前に鼬蜘蛛一体ですが倒しました。そしてそのときに旋術を偶然といいますか、使用できるようになりました」
「なっ!!鼬蜘蛛は6級の中でも中位の強さだぞ!!そんな偶然とかで倒せる相手じゃねーし!!」
やべぇ混乱してきた。でもそれなら強ぇってだけじゃねぇか?俺は強ぇのは歓迎だけどこの態度とは関係なさそうだな。
冷静に推測していく雷聖。
「私はその後に虎侍君の顔を見ました。そのときの虎侍君はとても苦しそうな顔でした。私の推測では虎侍君は例え魔物であっても殺すという行為を嫌っているのではないかと思います」
悩ましそうに話す先生。
「けど記憶は無いんだろ?」
記憶が無いから記憶喪失なんだろ?わけが分からねぇ。
「ええ、ですが無意識のうちにということもあります」
分かるような、分からないような…
「そうか、なら一度しっかり聞いておいたほうがいいな」
雷聖は席を立とうとしたが
「ちょっと待ってください」
「あっ?」
服の袖を掴まれる。
「たしかに虎侍君は殺すという行為は嫌っていると思いますが、あなたと依頼に行くということは心なしか楽しみにしていました」
「はぁ?こっちは子守をしてるわけじゃねぇぞ。楽しみにしているとかいう理由で居られるとこっちが危なくなるんだよ」
武人にとって一緒に依頼に行くものは命を預けるのも同然なものだ。それを楽しみなどとまるで遠足にでも行くような気持ちで居るのは命がいくつあっても足りないという心境になってしまう。心が安心できなければ魔物との戦闘中に気が逸れ、そして命を落とすことになる。雷聖は何度かそんな光景を見たことがあるため余計に敏感になってしまう。先生も雷聖の言うことは分かったのだろう目を瞑り何度か小さく頷き。
「では、依頼の町まで聞くのは待ってもらえませんか?」
「なぜ?」
「虎侍君はあなたとの依頼を終えた後記憶を取り戻すために旅に出ると言っていました」
「初耳だな。それは」
今日は初耳が多いな。
「そうですか。私と虎侍君が会ったときは旅をしているような感じでした。そのときには恐らく記憶を無くした後だったのでしょうね。あなたは人が記憶を無くすという原因はどこにあると思います?」
突然問われ戸惑う雷聖。
「いきなり言われても、俺にはどうとも言えねぇな。だが虎侍は瓦で頭を打ったんだろう?それが原因じゃないのか?」
今までに聞いた話を思い出し無難な答えを出す。
「私は人が記憶を無くすという主な原因はその人の心にあると思っています。自らが強く願い、そのきっかけがあれば記憶喪失ということになると」
そう言われるとそんな気もしなくは無いがどうもな…あいつのきっかけは瓦か結構痛いな。
「虎侍が記憶を無くした原因は虎侍の心が記憶を無くしたいと自分から願ったからだと?」
どうも腑に落ちないな。
「そうとも言い切れませんが。虎侍君のような子がそれほどまでに拒絶した記憶はとても辛いものかもしれません。そこでもし虎侍君に何かあればあなたに守ってもらおうかと思いまして」
なるほどな、護衛代わりってか。
「それでなぜ依頼の町までなんてことになるんだ?」
「それは…情が移ればと」
「おいおい、情が移ればって動物じゃねぇんだし。それに俺は誰ともつるむ気はない、今回は人数の条件があったからだ」
「そこをどうかお願いします。虎侍君に旅で必要なことを最低限でいいんです教えてもらえませんか?多分虎侍君はあなたと一緒に行けなくても1人で行ってしまうでしょうから」
フーとため息を吐き頭をガシガシと掻く。
「そういうことなら仕方ないな。どっかでくたばってたら夢見が悪くなるし。依頼の町までだ。そこまでに俺が必要最低限のことを教える。そこで魔物を殺すのが無理ならそこでお別れだ」
あー厄介ごとは嫌いなんだけどな~。
「分かりました。騒いだりこんなことをお願いしてしまってすみません。本当は私が行ければいいのですが、そうするとこの町の医者が居なくなってしまうので…」
「別にいい。この町から医者を連れ出した理由になって怨まれたくないしな」
雷聖がそういうと先生は笑い出す。
「何だよ…急に笑い出して」
「い、いえ。あなたの髪のせいで私はどこか誤解をしていたようです。すみません」
目じりを拭いながら先生は言う。
「なるほどな。まぁこの髪で誤解されなかった日は無いけどな」
「重ね重ね、失礼しました。…そろそろ虎侍君を呼んできますね。」
先生は一礼してから診療所の奥の扉に行こうとするが
「あ、名前を聞いてませんでしたね」
雷聖は少しぽかんとしてから苦笑いを零す。
「志真 雷聖。あんたは?」
先生はにっこりと笑い。
「佐久間 大善です。あ、少し虎侍君に持たせたいものがあるので時間をもらってもいいですか?」
「ああ、できるだけ手短にしてくれよ。日が暮れる前に安全な場所を確保したいからな」
「はい、ありがとうございます」
バタバタと去っていく大善を尻目に親バカを見ている気分になった雷聖だった。
今回更新が遅くなりました。m--m
多分これからも更新は遅くなってくると思いますが30話くらいは続けようと思っているので応援よろしくお願いします。