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第六話

雷聖side...


「ああ、やっと着いた。バマストからアカヤクまではちょっとキツいな。もっと近いところにしておけばよかった。もう夕方だし」


雷聖は久々の宿に心躍らせながら意気揚々と村に入って行った。町に入った瞬間、雷聖を見た人は目を見張った。

金や銀、黒や茶など様々な髪の色をした人が居る中で雷聖の赤い髪は目立っていた。

そして物珍しい髪を持つ武人の顔を面白半分、興味半分で見た人達は後悔した。なにしろ雷聖の顔を見たガキ大将が泣いて去っていったぐらいなのだから。



…いいさ、もう慣……慣れねぇーよ!!!俺は心優しいんだ!!前の村でもそうだ。転んだ婆さん助けたのに引ったくりだと抜かしやがったし!!!

   

     はぁ、さっさと宿見つけよう



少し凹んだ雷聖の顔は周りから見ると影が濃くなり般若の如き恐ろしさとなった。雷聖の行く道は人が恐ろしさのあまり行く方向の人垣が別れ、雷聖の通った道の方は雷聖を魔物の類かと疑る目で見送った。


―――――――――――*――――――――――――――――――――――*――――――――――――――――――――*―――――――――――



「ああ~死んでないけど生き返るなぁ」


太陽の香りがする寝台の上で前の村から楽しみにしていた柔らかさが体を包み雷聖を眠りの世界へと誘う。



「明日は役所で求人板を見てから食料を、買出し…して……ぐぅー…」



旅をしていた体はあっさりと眠りの世界へと意識を旅立たせてしまった。





翌朝、視線が集まり居心地が悪かった朝食を済ませ。昨日脱いだままだった防具の点検をし、旅のせいでサボりがちだった細部の部分まで丹念に磨き上げた。



「結構汚れ溜まってたな。今度また鍛冶屋で点検ついでに磨いてもらお。あ~、まだ昼飯にしちゃ早いな。

服を洗い屋に持っていくついでに昼飯食って求人板でも見とくか。食料は…明日で」



あまり長居をするつもりのない雷聖だが近い村まで最低で3日も歩き続けなければならないので、ついつい滞在期間を延ばしてしまう。一人旅なので誰も文句を言う人はいないが。




洗い屋で、着ていた服も洗ってもらい、求人板を見に行くために役所がある町の中央まで足を進める。普段はズボンのため着物が着崩れしてしまい直しても直ぐにまた崩れるのでそのままにしておくとそこいらに居るチンピラのようになっている。

周囲の人達の反応も昨日より酷くなってしまい雷聖はもの凄く落ち込んだ。



疲れる…いいのが無かったらさっさと帰るか


10級~7級までとその他の求人が貼り付けてある外の求人板は無視をして役所の中に入っていく。役人たちも雷聖の髪や顔を見て顔を合わさないようにそそくさと立ち去り受付の人や対応をする人は担当になったらと青ざめている。

雷聖は心の中で静かに泣いた。

できるだけ無表情をしたがそれがかえって微かに怒っているように写って役人達は慌てた。

半ば諦め6級の求人板を見た。

雷聖が一人で倒せるのは6級までなのでいつも6級のものでいいのが無ければさっさと帰るのだが今日はついつい5級の求人にまで目を移した。瞬間、神経が目に集まる。



こ、これは5級の求人か!?火吹き狐海豚(きつねいるか)の退治がこの時期5級なわけあるかよ!!!礼金は5級のまま!!依頼日は昨日か!!依頼したやつはアホだな。くくくっ…



雷聖は怪しい笑みを浮かべた。周囲の温度が2度ほど下がる。

求人書を乱暴に取り受付の所へ持っていく。受付の人は顔が真っ青で泣きそうだ。


「これ、請けるぜ」


「は…はい…」


震える手で受け取り依頼書に書き込んでいく雷聖がじぃ~と監視をするかのように見てくるので字が震え少し見にくい。


「あ…あの、この依頼2名以上じゃないと受けられないんですけど…」


「ああ!!?なんだと!!んなものなんとかしろ!!」


あまりにもいい求人を人が足りないということだけに手放したくない雷聖は苛立ち受付の人に威圧的に迫った。自分の厳つい顔を利用して。


「ひぃぃ…こ…こちらとしても規則なんで…」


受付の人は情けない声を出しながらも雷聖に立ち向かう。後の方で同僚と思われる人が今にも拍手をしそうな勢いで心の中で応援している。

受付の人は雷聖の睨みを受けながらも引く気配はない。雷聖は奥歯をギリギリ食いしばる。


「じゃあ、今から探してくるからその求人は取って置けるよな?」


出来るよな?ともう一押ししておくのを忘れずに付け足す。受付の人は耐え切れずに頷く。ニィッと笑う雷聖は餌を前にした魔物だった。そして急いでもう1人の仲間を探すために去って行った雷聖を見ながら受付の人は生きている喜びを同僚と分かち合っていた。



「あ~めんどくせぇな。というかこっちの地方はしばらく魔物が休眠期になるから武人は少ねぇし。いざとなったら暇そうなやつ1人引っ掛けてくるか」



役所内には武人が居なかった為、外の求人板の方を見てみようと外に出た瞬間。1人の少年とぶつかりそうになる。だが雷聖はぶつかりそうになったことよりも他の事に気を取られた。

あまりにも突然だった為、雷聖も完全にぶつかったと思ったのだが、少年は前の方にかかっていた重心を前に出していた右足で瞬間的に後ろの方へ押し戻しそのときに体を少し浮かせ滑るように後ろに移動した。

簡単に言うと確実にぶつからない距離まで雷聖が反応できない速さで後退したのだ。

しなやかに、まるで風に吹かれる柳のように体を扱うその様は、雷聖の中に印象強く残った。



一瞬であんな移動ができるなんてすげぇ。刀を持ってるってことは武人か。14~16歳ぐらいか。珍しくないが、あの技術はそれなりに強い流派の武術を教えられてるな。こいつなら火吹き狐海豚の退治にいても足を引っ張られることもなさそうだな。


自分がじぃ~と観察していることに気づき、相手をあまり怯えさして逃げられては堪らないと今までとは違う笑みを浮かべた。少年が目を白黒させている間に用件を済ませる。


「あんた武人だろ?俺は志真 雷聖。依頼を請けよと思ったんだが2人以上じゃないとできないって言われたんだ。頼む!!一緒に請けてくれ!!」



混乱しているであろう少年は頷き、雷聖は心の中で怪しい笑みを浮かべた。正気に戻る前に腕を掴み役所の中に引っ張っていった。そしてさっきの受付の人がまた真っ青になって対応した。


「これで2人だ。文句ないだろう?」


受付の人はコクコクと頷いて先ほどの依頼書を取り出し続きを書いて最後に印を押し雷聖に渡した。雷聖は受け取り必要なところがしっかり書かれているか確認する。


「よし、ありがとな」



後の方で待たせていた少年を見て頑張ろうなと先ほどのいい笑みを偽りなく浮かべた。

まだ先ほどの混乱が続いているのであろう少年を見ていて雷聖は心のどこかでこの少年とならどれだけ危険な魔物でも倒せる気がしていた。

どれだけ強い味方が居ても魔物を倒す前は不安が消えないが少年の気配を感じていると安心感のようなものが心のそこから湧き出てくる。


不思議な少年だなと思う雷聖だった。


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