第二十一話
ようやく話が少しずつ動きだします!
あと少し専門用語が出てますけどそんなもんなんだとだけ思っておいてください。
虎侍side...
あの何とも気まずい日から4日経ちました。
俺が早乙女さんに振られた日から4日…雷聖と深那月さんと早乙女さんとで朝昼晩と食事にいつも一緒に行っている。雷聖と深那月さんはよく俺と早乙女さんの方をチラチラと見て皐月さんはソワソワしてる。
アハハハハハ、そりゃあ気まずいよねー。強引に女の子を引っ張ってねぇー。飯も一緒に行かないと怖いよねー。
グスッ……目からしょっぱい汗が出てきそうだよ……顔は無表情だけどね。
「虎侍。今日だったよな刀が出来る日は?」
雷聖の問いかけにコクリと頷く虎侍。
「じゃあご飯食べたら鍛冶屋に行くか」
「虎君の新しい刀かぁ~楽しみねぇ~ねぇ皐月?」
「う、うん…」
振った俺の刀の評価とかいいから深那月さん止めてあげて~早乙女さんすっごい答え難そうだから。そして俺の心に鋭い棘が刺さってくるから…
虎侍は心の中でため息をする。
4日前だったらどんな刀が出来たのか楽しみだったろうな~今じゃドーデモイイヨ…
心の中で枯れたような笑いを零す虎侍。
「よし!鍛冶屋に行くか!」
「楽しみね~」
瑠奈は自然と雷聖の腕に自分の腕を絡めて寄り添い歩き出す。
目に毒だー!何アレ?当て付けですか?!!
「おお!お前さんか待っとったぞ~」
じいさんがムフフと笑いながら店の奥に入っていく。
「坊主~よく来たな~グフフ…」
じいさんが入っていった方からおっさんが変な笑いを零しながら出てきた。虎侍の後ろで瑠奈が雷聖に「この店大丈夫なの?」と不安そうに言っている。
俺も聞きたい…
おっさんは刀袋に入った刀を一本渡してきた。
「ほら、これ前に坊主が使ってた刀だ。一応くっ付けたが魔物相手には使うなよ」
頷き刀袋を受け取る。慣れ親しんだ重さが落ち着かなかった心を静める。
そういえば元の世界から持ってきてちゃんと手元にあるのってこれだけだな。道着の上着は着物じゃないから先生に預かってもらってるし、袴の方はボロボロになって捨てたし…この刀だけは出来るだけ手元に置いとくようにしよう。唯一の元の世界への手がかりだし。
「後ろの方はお連れさんか?」
「ああ、こいつの保護者だ」
え?!仲間とか相棒とかじゃなくて保護者の位置だったの!?…ちょっとショック……
虎侍は心に20のダメージを受けた。
「それじゃあ、試斬も見るか?」
「へぇ~、試斬までするのか」
雷聖は感心するように頷く。
「当たり前だ。うちの打った物が合わないから死んだ、なんて言われた日には店の看板を降ろさねぇといけねぇからな。その辺に関しては徹底的にやらさせてもらってるよ」
おっさんは腕を組み、胸を反らして自慢をするように言う。
「坊主、新しい刀は裏の試斬をする場所で渡すからついて来な」
おっさんは横の方にあった扉を開けて外に出て行く、虎侍達もおっさんの後に付いていく。
「ここだ。ここにある試斬棒を使ってくれ」
おっさんが案内をしてくれた場所には20近い試斬棒が並んでいた。
「随分大量にあるな」
「ああ、親父が弟子に修行の一環で作らせてるんだ。全部斬っても明日にはまた同じ数ぐらい出来てるぞ」
雷聖はおっさんの言葉にまた感心している。そして工房の方からじいさんが出てきた。
「カッカッカ!身の丈に合わん武器を持っていても怪我をするだけだからのう。お前さんも納得するまで斬るがええ」
一振りの刀を差し出しながらじいさんは言う。
頷き虎侍は刀を受け取る。漆が丁寧に塗られた鞘はツルツルしており触っているだけで気持ちがよくなる。
虎侍はじいさんに刀袋に入った刀を預けた。
そして若草色の糸で出来ている柄に手をかける。まだ馴染んでない柄糸が虎侍を新鮮な気持ちにさせる。目抜には龍、鍔には虎がまるで絵のように並んでいる。
虎侍は鯉口を切り、ゆっくり刀の刀身を露にする。
刀身にある波紋は一見規則無く乱れているように見えるが、乱れの一つ一つに意味があるような美しさで並んでいる。
「軽い…」
虎侍はポツリと呟く。
「カッカッカ!お前さんが使っていた物に比べれば歴然だろう」
これ本当に真剣か?木刀と同じぐらいの重さしかないんだけど。まさか竹光?
じいさんとおっさんが聞いたら卒倒しそうなことを思う虎侍。
「虎侍、試斬してみろよ」
雷聖が後ろで急かす。
虎侍は一度刃を戻し、刀を腰に差し調節する。そして試斬棒の前に行く。
一度大きく息を吐き集中力を引き上げる。腰を僅かに落とし、刀に手をかけ角度を調節しながら鯉口を切る。柄に手をかける。
息を小さく吸う。そして
――戦源流剣術・壱
抜き放つ。
刀は虎侍の意思に従い試斬棒の真ん中を斬る。
一瞬のことだが、虎侍には永遠に近い時間。横一文字に振るった刀が試斬棒にあたり手ごたえがする、そのすぐ後に堰を切った用に試斬棒に巻かれている藁が一本一本斬れていく。
それは刀の美しさと隠れるように共存する強さが最大限に現れる一瞬。
トサッ
試斬棒の切れた上部分が落ちる音がやけに大きく聞こえる。
キンッ
刀の直すときの鯉口が鳴り一振りの刀が織り成す舞台が終わる。
「お見事。刀の方もお前さんを認めているみたいだの」
じいさんは満足げにカッカッカと笑う。
ちょっ!何だこの切れ味ハンパねぇ!試斬棒の切り口とかもの凄い滑らかなんですけど!!気持ちいいー!
虎侍は刀の切れ味にテンションがこの上なく上がっている。
「虎君って実はもの凄い子?何この切り口、今まで見たこと無いわよ」
「虎侍さん凄い」
「虎侍!もう一回やってくれよ」
コクコクと頷き横にある試斬棒の方へ向かう虎侍は賛美の声は届いておらず。皐月の声も殆ど雷聖の声にかき消されていた。
4、5本ほど斬って満足した虎侍御一行は店の中で出されたお茶を飲んでいた。
「坊主満足したか?」
虎侍は頷く。それを見ておっさんも満足している。
「それじゃあ、代金の方だが1500銭でいいか?」
おっさんの言葉に頷き懐から財布を出し、100銭を15枚おっさんに渡す。
「なっ!!あんな業物が1500銭で?!!」
のほほ~んとお茶を飲んでいた雷聖が驚き声を出す。
「ああ、今回の刀は親父が弟子に己惚れる事の無いように打った物だから材料費以外はとれねぇよ」
「材料費で1500銭!?何を使ったのよ?」
今度は瑠奈が騒ぎ出す。
「2級礎永鉄だ」
ブッ!
雷聖達が一斉に噴き出す。虎侍は頭に疑問符を浮かべながら雷聖達の行動に少し引いた。
「なななな、何でそんないいものを!!」
「ま、まぁ2級の礎永鉄を使った武器を作りにここまで来る奴なんて居ねぇから弟子に見せるのに使う予定だったんだ。そのときに坊主が来て飾りにするぐらいだったら坊主に渡して有効に使ってもらおうって話になったんだよ」
「虎侍、お前って意外と強運なんだな」
雷聖は虎侍を見て言う。虎侍は何のことか分からなかったがとりあえず頷いた。
「ねぇ~次は薙刀を2級の礎永鉄で作る気はない~」
瑠奈はおっさんに色仕掛けをしていた。皐月は持っていたお茶を零したらしくおっさんに布巾をもらって拭いていた。
何か思いがけずに良い物をいい値段で買ったみたいだな…ラッキー?
虎侍が2級礎永鉄がどこまで良い物かを雷聖から教えてもらえるのはもう少し後のこと。
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