第十二話
残酷?表現入ってます。
虎侍side...
ダルダストを旅立って9日目ようやく雷聖が言っていた組に入る仲間が居る町、ネハツリームが見えてきた。町は緩やかな盆地になっており町の風景がよく見える。
「あと少しだな。多分この町に居るはずなんだけどな…」
雷聖がそう言いながら高台から下っていく。
ええ~ここまで来てハズレは止めてくれよ…
畑は蒔いた種が新芽をだし所々で青々とした小さな葉が出てきている。町人たちは出すぎた新芽を摘んだり、害虫の駆除に忙しいようだ。そんな風景を見ながら虎侍と雷聖は町に向かっていく。
町の門まであと50メートルもないところで門の左の方の高台に居た町人が旋術を使って走ってきた。
「魔物だーーー!!!逃げろーーー!!!」
走ってきた人の後ろには背中に2本の爪を生やした亀が居た。体長は5メートルほどあるが走ってきた人を追い越す勢いで走ってきている。
亀なのに早ぇええ!!!足バタバタさせてるのにどこからあのスピードが出てるんだよ!!!
「虎侍!助けるぞ!!」
雷聖は走り出す。走ってきた人と亀の差はあと5メートルを切っている。雷聖の速さでは追いつけない虎侍も旋術を全開で使い走る。
刹那、雷聖を抜かし50メートルあった距離を一気に詰める。亀の背中にあった爪が振りかぶられる瞬間、虎侍は亀と走っていた人との間に立っていた。そして低い体勢から抜刀し右斜め上に振り切る。
――戦源流剣術・笹斬り
虎侍の刀は鋭く亀の頭を絶った。頭が切り落とされた亀は爪を振り上げたままの状態でドスンと音を立てて崩れ落ちる。返り血が大量に出て虎侍の新しい服を汚してく。
ああ~また服が駄目になる~早く洗わないと。
虎侍は安堵して向かってくる雷聖が手を上げてくる。虎侍もそれに答えて少し手を上げるといつの間にか集まっていた町人たちが歓声を上げる。
ぎゃー!いつの間にこんなに集まったんだよーー!!!た、助けてーー!!!
虎侍が心の中で吃驚していると走っていた人が虎侍の腕にしがみつき感謝の言葉を何度も言う。
ちょ!!腕痛い!痛い!!
しがみつかれた腕がギリギリと万力のような強さで握られ悶絶している虎侍を知らず町人たちは虎侍に感謝の言葉をドンドン言っていく。
も、もう…いいから…はなして……
虎侍は虫の息になっている。
「虎侍!!!」
へ?!!
雷聖の声を聞き視界に映る魔物の爪を脊髄反射で町人を庇いながら刀を振る。
パァァアアアン!!
「っ!!!!」
出来る限りの速さで刀を振りぬくが気付くのが遅く、振った角度が甘かった刀は派手な音を立てて刀身の半ばから折れ、町人を庇い身動きが出来なかった虎侍の右の鎖骨の下から左首の方まで一筋の傷を残して動かなくなった。
駆け付けてきた雷聖が安全のために背に生えている2本の爪を一撃で圧し折る。
「虎侍!!!大丈夫か!!?」
意外と出血の量が多く雷聖は慌てる。虎侍は町人がくれた手拭いで止血するが手拭いは直ぐに赤に染まる。少し大きい血管を掠めたようだ。
痛ってーーー!!!ちょ!!出血多!!!俺、まだ死にたくねぇーーーーー!!!!
虎侍の表情は動いていないが心の中では大混乱している。町人は虎侍の落ち着き様を見て混乱が直ぐに収まり1人の中年男性が急いで診療所へ案内してくれることになった。
診療所に着くと誰かが先に知らせてあった様で直ぐに診てもらえた。
「意外と深いですね。縫いましょうかね」
………え?…縫うの?ちょ!ちょ!!ちょ!!!ストップ!!!嫌だ!痛いのは嫌だ!!!今も痛いけど縫うのはぁぁあああああ!!!
虎侍の背筋は冷や汗がダラダラ出ている。だが雷聖がさっさと虎侍の服を引っ張り歌舞伎役者のように長着の上だけをはだけさせ、何気に嫌がっている虎侍を強引に手術台に寝かせた。
医者の方もその間に針と糸を出し消毒液を持って手術台の近くにある台へ移動させ、ガーゼのような布を出してくる。
まっ!待って!!!話せば分かる!!!こんな傷1日で直せるからーーーー!!!…………
出血のためか緊張のためか虎侍の意識はそこで途切れた。
「お、起きたか」
目が覚めると雷聖が気付き声をかけてくる。目をパチパチさせている虎侍を見て雷聖は医者を呼びに行く。
えーっと、俺どうなったんだっけ?
少し視線を横にずらすと点滴が虎侍の腕に繋がっており違和感がある首筋辺りに点滴が無いほうの手で触ってみると包帯の感触が分かる。痛みは今のところ無い。麻酔のようなものが打たれているのか頭が、ぼ~っと靄がかかったようにうまく動かない。
ぼ~っと現状を把握しようとしている虎侍のところに雷聖と医者が来る。
医者は、気分は悪くないか等を虎侍に聞き異常が無いのを確認し、点滴の量を見て
「今夜はここで泊まりなさい。朝には薬を渡すので過激な動きをしなければ大丈夫だから」
医者はそう言って去って行った。雷聖はそれを見送ってからゴソゴソと何かを出した。
「ほら、食え。お前が助けた人がお礼にって届けてくれたんだ」
えー。誰だっけ?
まだ頭がハッキリしていない虎侍は雷聖が渡してくれた何かの葉に包まれたものを開ける。中にはおにぎりが5つほど入っている。しかも丁寧に焼いてあり焼きおにぎりになっている。
おおおお!!!うまそーーー!そういえば昼飯食ってなかったーーー!!!
一気に意識が覚醒しテンションがあがる虎侍。おにぎりに齧り付きうまそうに食べていく。雷聖は笑いながら茶を差し出してくる。15分もしないうちに食べつくし。満腹になった虎侍は眠気に襲われる。
あーなんか貧血っぽい。体ダルい~眠い~。
虎侍はあっという間にまた夢の世界へ行く。
翌日雷聖が
「すまん!連れになるやつが少し前に隣の町のほうに行ったらしいんだ。怪我してるのに悪い!」
雷聖は頭を下げて言う。虎侍は慌てて
「大丈夫……痛くないし…」
医者の処置がよかったようで少し違和感が残るものの痛くない虎侍は隣の町までなら今からでも十分歩ける状態だった。朝から傷薬と痛み止めと化膿止めの薬を貰い、今は町の宿を取ってゆっくりしているところだ。そして今日はゆっくりして明日に隣の町に行くことになった。
昼近くになりトントンと戸を叩く音がして
「よろしいでしょうか?」
雷聖が短くそれに答え宿の女将が戸を開け入ってくる。入り口辺りで座り。布に包まれた30センチぐらいの長細い物を差し出す。
「先ほど畑に落ちていたと持ってこられて恐らくこちらの方達だと申されまして」
雷聖が近づき布を広げると刀の折れた方の刀身が現れる。
「虎侍これか?」
何度も見たことがある刃紋を見て脇に置いてあった半分折れ軽くなった刀を近くに持って行く。折れた刀を鞘から抜き断面を合わせる。少し破片が欠けているところがあるが虎侍の刀だ。
「ありがとう。魔物の死体の近くに落ちていたのか?」
「どうでしょう。そこまで詳しく聞いてないものですから」
申し訳なさそうに言う女将。
「ああ、別にいい」
「それでは失礼します」
女将は静かに去っていく。
ああ、俺の刀があられもない姿に…じいちゃんに見られたら…ひぃぃぃぃいい……
虎侍の心は恐怖凍りつきそうだ。
「…刀…元に戻せない…?」
虎侍は必死になり元に戻そうと手段を考える。
「ん~そうだな。隣の町に鍛冶屋が在ったはずだから明日町に行ったら行くか?」
虎侍はコクリと頷く。布に巻いて持っておくのは危ないので刃先を鞘に入れたあと柄のほうを入れ下緒で抜けないように括る。
はぁ、刀が使えないと何か心許ない……ってか元の世界に戻ったらじいちゃんにどう説明しよう…いざとなったら似たようなものを作ってもらおうかな…
その後は特に用事もなく平穏に過ぎていった。そして翌日の朝に虎侍と雷聖は隣のヨナジャグという町に旅立った。
GWに3話ほどアップしようと奮闘してます。