第十一話
虎侍side...
隠居のじいちゃんってこんな感じなのかなぁ~
今、虎侍は宿屋の一室で座椅子に座って温いお茶を啜っていた。のほほんという効果音が付けられそうだ。少し離れたところでは雷聖が休日のお父さんになっていた。
2日前依頼の魔物を倒し終え夕暮れ近くに町に着いた。町の人は返り血まみれだった虎侍と雷聖に驚いていた。驚いていた殆どの人の視線は雷聖の方に向いていたのだがあえて2人としておいたほうがいいだろう。
「虎侍~昼になったら役所行くぞ~」
買い物に行くぞ~的な感じで言う雷聖。
「…分かった」
町に帰った日、閉まりかけの役所に行き依頼完了の報告をした。ついでに雷聖は情報の誤差がありすぎだと抗議して依頼の礼金に色をつけてもらうことに成功していた。返り血が付いたままだったので雷聖の顔はもの凄い迫力を持って話は意外とスムーズに進んだ。
いや~、あれは怖かったな~鬼が現れた!とか裏のほうで言ってたくらいだし。
依頼の礼金は、依頼の魔物が倒されているかどうかの確認が役所の人が行ってから貰えるので早くて1日ほどかかり、虎侍と雷聖は昨日一日中休憩しそして一日経った今日礼金を貰いに行くのだ。
ってか新しい袴欲しいな。裾だけボロボロでかっこ悪いし。長着は先生からもらったのがあと2着あるけど余裕があったほうがいいしな。一応金の方はあの薬で心配は要らないけど服を買うのって元の世界と同じ感じなのか分からないし…ああ、俺駄目っぽ…
虎侍が心の中で少し凹んでいると雷聖が虎侍の方を向いて
「ところで虎侍、組作るかどうかまだ返答聞いてねぇんだけどどうなんだ?」
ああ~完全に忘れてた…組か…どうしよう。
町に帰るときに雷聖に説明してもらっていた組とは元の世界で言うチームのようなものだった。気が合った者や目的が同じ者達が集まり組を作り、依頼を共にするというものだった。
そして前に話していた東と西に拠点を作るのは組を結んだ人達がお互いに別の依頼をするようになったときに帰る家のようなものだ。大きな組となると拠点を持たないと宿屋をいつも借りているといくら依頼をこなしてもお金が足りるものじゃないらしい。
逆に数人で拠点を構えているところもあるらしいが結束力を高めるという点ではいいと雷聖は言った。
他にも大人数になると必然的にドンちゃん騒ぎをするときが多くなり宿屋だと迷惑がかかるというのが現実のようだ。稀にいい宿だと大人数の組が泊まることを断られるときがあるらしい。
世界が変わっても切実だな。まぁ元の世界みたいに防音対策の手段が限られてるこっちの世界の人も大変だな。役人とかも24時間体制じゃないみたいだし。そうなると先に断っておくほうがいい判断だよな。
ってか俺なんでこっちの世界の商売事情みたいなこと考えてるんだよ!えーっと、確か組を作るかどうかだっけ?
うん~入ったほうが元の世界に戻る手段を探すときに利用できるな。それに雷聖さんも基本的にいい人だし。特に嫌がる必要もないか…
「……いいよ…」
雷聖は虎侍の返答を聞いてなんとも嬉しそうな顔をする。
そういえば自分の拠点を持ちたいって言ってたっけ?それって自分の組を持ちたいってことか…夢があっていいねぇ~
思考までも隠居のじいちゃんになりかけている虎侍だった。
「あ、あともう1人組に入るやつが居るから明日そいつのところに行くからな」
雷聖の言葉にコクリと頷く虎侍。そうしているうちに昼食が運ばれてきて役所に行く頃になった。
「それじゃ、礼金をたんまりとかっぱらいに行くか」
かっぱらいはやめようぜ…
心の中でそう思いつつ雷聖の後ろをくっ付いていく。
「ほ~、中々入っているな」
「はっ、はい」
「まぁ、これならいいか」
「そ、それではこちらの方に署名をしてください」
「はいはいっと」
役所の受付の一角は戦々恐々とした雰囲気が広がっている。そして一緒に居る虎侍にもその視線が突き刺さり少し居心地が悪い。
「これでいいか?」
「はい。ご協力ありがとうございました」
雷聖は役人の言葉を殆ど聞かずにさっさと虎侍と共に役所を出て行く。
もうちょっと聞いてやろうよ…役所の人も大変だな。
少し担当をしている役人に同情してしまう虎侍だった。礼金の半分を虎侍に渡し雷聖は
「じゃ、服を繕いに行くか」
お、ラッキー袴繕ってもらおっと。ってか1000銭が3枚って30万…一回で30万とか…えええぇぇぇぇえええ!!!?!!多っっ!!15の俺が30万を所持って一体何したと思われるんだよ!!確かにものっっっ凄く大変だったけど…ちょ、ちょっと手が震えそう…じゃあ、元の世界じゃ何が買える?えーっとゲームが1個大体6千だとして……50個?…実感が沸かねぇぇぇええええ!!!50個もゲーム変えるか!!!全クリにどんだけ時間かかるんだよ!!
虎侍が相変わらず表情は動いていないので全く雷聖には分からなかったが混乱しながら歩いていると町を少し歩いたところに呉服屋はあった。
そこそこ繁盛しており、訪問着のような少しカラフルな色から普段着のような少し落ち着いた色などの布がたくさんあった。
既製品のように既に出来合っている服も置いてあり、普通の町人は既製品を買って丈を合わせて再度繕ってもらっているようだ。
雷聖と虎侍は既製品の場所で今まで着ていた服と似たような服を買い。丈を合わせてもらい夕方に取りに来てくださいと言われ近くの茶屋で時間を潰すことにした。
こういうのってどこの世界でも似てるんだな。呉服屋で繕い物をしてた人すごいなミシン並の速さで繕ってたよ。まぁ旋術少し使ってたからだけど。
旋術って意外と違和感なくこの世界に溶け込んでるんだな。意外と向こうの世界の電気製品みたなものかな。
虎侍が考え事をしているとお茶と団子が運ばれてきた。蓬のような団子とゴマ団子と餡子のようなものが付いた団子が3本と羊羹が2切れとセットで付いてきた。
よく見ると団子は一つ一つの大きさが不揃いで手作り感が滲み出ている。
食べてみるとほのかな甘さがほわ~という効果音が付いてくるように広がり幸せな気分になる。元の世界のように綺麗というものではないけど温かさが伝わってくるおいしさだった。
食に関してはこの世界に来てよかったかな。元の世界じゃあ昔ながらの伝統とか言って値段が高いし。
日が暮れ始めたとき呉服屋に行ってみると縫い終わった服を渡してもらえた。ちなみに虎侍は長着1着と袴2着を買って90銭だったので100銭を一枚渡し10銭帰ってきた。ちなみに今の100銭はあの薬の代金の一部だ。
今の虎侍の懐には元の世界では札束で人をペシペシと叩くぐらいの大金が入っておりとてつもなく温かい状態だ。だが本人は初めて持つ大金に実感が全く湧いていないどころかその部分だけ思考が停止している。
そしてそのあとは平穏無事に宿に戻り明日からはしばらく布団の恋しい日が続くので早めに就寝し、存分と寝ることにした。
遅くなりました~
これからは週一回の更新を目指していきます。