第十話
残酷表現入ってます
雷聖side...
はぁ~、しまった…本当ならあんまり連れてきたくなかったんだよ。もし途中で急に倒れたりとかしてついでに魔物が直ぐそこまで迫ってたりしてたらどうにもならねぇし…放置しとくわけにもいかねぇし…はぁ…
今、雷聖と虎侍は黙々と山奥に向かっている火吹き狐海豚の討伐のためだ。そして雷聖は記憶喪失になっている虎侍の同行を許してしまった自分に呆れていた。
まぁ今の時期の火吹き狐海豚、数匹ぐらいなら俺1人で事足りるだろうな。
昨日役所で詳しいことを聞くと、山の方で仕事をしていた男達数名が火吹き狐海豚を数匹見かけたとの事。そのときは事なきを得たが次に山に行くときに危険になるので退治してほしいという依頼だ。
このような依頼は珍しくない。個人が依頼したのなら相場とずれていても疑うことはないが、役所の中に張り出されているものは常に依頼人にちゃんとした確認をするのであまり相場から外れることはない。そのため、休眠期に入った火吹き狐海豚が5級になっているところがだんだん怪しく思えてきた雷聖だった。
まぁ、あまり疑って一度請けた依頼を辞めたりしていたら知名度にその噂が入りいい依頼が個人的に入らなくなってしまう。
手に負えそうになかったらさっさと引き揚げるか。
「そろそろ現れるかもしれないから気をつけろよ」
ちょうど火吹き狐海豚のつけたものであろう草に焦げ跡があり虎侍に注意を促す雷聖。
「分かった…」
虎侍は刀の鯉口をいつでも切れるようにする。雷聖も歩きながら手甲微調整していく。
耳を澄ませたときに森が切り開けた場所から物音がする。
雷聖は物音があまりしないように注意して歩いていき、どこから襲われても常に対処できるように体の隅々まで意識を巡らせる。
だがまだ旋術は発動させない気配が急に変化すれば向こうも襲撃されないように戦闘態勢に変えてくる。出来るだけ危険を減らしたいので敵が現れるまで発動はさせない。
虎侍にも出発の前に言っておいたので旋術は発動させていない。
そして森が途切れたときに見たものは小さい丘のようになっているところに70匹は居るだろうと思われる火吹き狐海豚だった。
体は雷聖の腰までしかなく背中に背びれがあり、意外とすばしっこい。2、3匹で連携をとるようにこちらを狩ってくる。
雷聖はこんなに火吹き狐海豚の大群を見たことがない。せいぜい多くても2、30匹がいいところだ。だが今回はそれの倍ほど死ぬ気で倒しても半分が限界だろう。もちろん虎侍を守っている余裕はない。
これは無理だな。腕っ節があるやつ4、5人は必要だな。俺もあいつらに囲まれると足が付いていかねぇ。幸いこっちが風下か…風の向きが変わる前にずらかるか。
「虎侍、無理だ。引くぞ」
言い終わるのが早いか、急に風の向きが変わる。
こちらが風上になる。
「ちっ!虎侍走れ!!!俺が食い止める!」
雷聖は腹を括る。だが虎侍は動かない。雷聖を見て首を横に振り。
「行かない」
と一言。
そして火吹き狐海豚が臭いに気付き一斉に雷聖達に向かって走り出す。
「なっ!お前は俺が巻き込んだんだ!!さっさと行け!!」
「行かない…俺は…自分で選んだ」
普段あまり喋らなかった虎侍が普段より強く言い雷聖はたじろぐ。
もうそこまで火吹き狐海豚は迫ってきている。雷聖は奥歯を強く噛み旋術を発動させる。
「俺の後ろの方で戦え!!危なくなったら直ぐに逃げろ!!いいな!!」
虎侍の返事を待たずに走り出し、少し遅れて虎侍も動き出す。旋術も発動させているところまで確認して雷聖は火吹き狐海豚に集中する。
足と腕に旋術を集中させて飛び掛ってきた1匹を殴り飛ばす。そして2、3匹と倒したときには囲まれてしまった。余った火吹き狐海豚は虎侍の方に向かっていく。
四肢を自在に操り死角を作らないように倒していく。まるで荒々しい一匹の獅子のように火吹き狐海豚を蹴散らしていく。
「おおおおおおっっ!!!!!」
何十分戦い続けたか分からない。火吹き狐海豚の爪や牙が時々掠り少しずつ雷聖に傷を付けていく。まだ40匹ほど残っている。
雷聖は一撃一撃に力を籠める戦い方が本来のもので、素早い敵は数が多いほど立ち回りがうまくいかなくなる。
今もだんだん動きが鈍ってきている、比例するように傷も増えてくる。足元には火吹き狐海豚の血と雷聖の血が少量と死んだ火吹き海豚の死骸などが溜まってきている。場所を変えなければ足を取られてしまう。
くそっ!!多い!
雷聖は焦り、少し足元から注意を逸らしてしまう。そして
ズルッ!
「うおっ!!」
案の定、足を取られ体勢を崩してしまう。火吹き狐海豚はここぞとばかりに大量に襲ってくる。雷聖は起き上がろうと追撃をするが上からの攻撃のほうが幾分か強い。
ここまでか…金に目がくらんでこの様とわな。嫌な最後だな。
雷聖は覚悟を決めかける。そのとき、上に乗っかっていた火吹き狐海豚の首が飛ぶ。恐ろしいほどの血が雷聖にかかる。雷聖は血を無視して急いで起き上がる。火吹き狐海豚の攻撃がないので辺りを見てみる。そこには虎侍が掠れるような速さで火吹き狐海豚を次々に倒している。
後ろから襲いかかってくるものは後ろに振りかぶるときに串刺しにしてしまう。そして前のほうに居るものは串刺しにした物を抜くときの反動で常に2匹以上を巻き添えにして切り捨てていく。あまりの速さに急停止するときに死骸を巻き込んでいる。
ズシャッ!!
グチッ!
パキッ!!
ザンッ!!!ブシュッ!!!
先に雷聖の周りの火吹き狐海豚を一掃し、5秒もかからない内に雷聖の体勢が立て直せるほどの距離を稼ぐと後方に走っていく。虎侍が元々相手をしていた火吹き狐海豚の方を倒しに行く。
あいつ一体何者なんだ?あんな速さで戦うやつなんてそういないぞ…
あまりにも洗練された動きに見とれていた雷聖はハッと気付き、体勢を立て直し直ぐに近くに居た火吹き狐海豚を倒していく。
それから優に1時間半かけて全ての火吹き狐海豚を倒しきった。最後の方は逃げようとするものを倒すのに手間取ったが虎侍が走りわりと早く終わった。
そして今は倒した火吹き狐海豚の死骸に腰掛けて休憩している。
ああー!!終わったーーーー!!数が数なだけに疲れたー…
ふぅと息を吐いて虎侍の方を見る。今は雷聖に背を向けるようにして座り、刀に付いた血を着物の袖で拭っている。
着物は雷聖も虎侍も返り血がついてたり泥が付いたりボロボロだ。雷聖は噛まれたり引っかかれたりしている。虎侍は走ったときに死骸の牙や爪に引っかかって袴の裾の方が酷いありさまだ。だが、お互いに擦り傷や軽い切り傷だけで重傷なものはない。
そういえば俺はあいつに助けられたんだな…最初に助けねぇといけねぇと思ってたのにこの様じゃな…
雷聖は苦笑いを零す。虎侍は刀を拭い終わったようで刀を仕舞い雷聖のほうを見た。雷聖は自然と感謝を伝える。
「虎侍、ありがとうな」
虎侍は少し間をおいてコクリと頷く。間が少し気になるが
「お前、組に興味あるか?」
沈黙が続き雷聖は無理かと落胆する。
「…組……?」
ただ知らないだけだったようだ。雷聖は思わず笑ってしまう。
「ははは…悪い。帰りながら教える」
雷聖は立ち上がりながらいい。虎侍が頷くのを見て歩き始める。虎侍も後に続く。
今まで組を作ろうとか思ったことなかったけど何だろうな。本当に面白いやつだ。ああ、そういえばあいつもそろそろ戻っている頃だろうな。合流するか…虎侍のこと、どう説明するかな。あと、役所で情報に誤差があるって抗議してやろう。礼金増やしてやる。くくくっ。
雷聖は虎侍に組のことを話しつつ山を降りていく。夕方ころには町に戻っているだろうなと思いながら。
友人が虎侍のイラスト書いてくれました。URLが長いので活動報告の方にのせます。虎侍の他に友人のイラストは1つ1つが個性的で面白いです。是非見てください~。