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魅了は中途半端だから問題になるし平民のところに放り込まれても困る〜あからさまなやり方と溺愛祖父と追放令嬢について上品に語る平民のお気持ち〜

作者: リーシャ

ヒロインと言われるものが学園に入ってからというものの、彼女には常に男がそばに侍っていた。


コリティはそれに対して不快な顔をした。


香水をかけすぎたときみたい。


香水は、通った時に残るか残らないかという匙加減で、十分なのだ。


「コリティ」


「セイン」


向かいの椅子に座る男が微笑む。


「変な女がいるな」


「ええ。変なの。あれじゃあすぐに露呈して排除されてしまうわ?」


小声で聞こえないくらいの会話は二人にとって簡単だ。


「あの女、どう見てもというか誰が見ても魅了の能力持ちだな」


「そうみたい。確率で話術がすごいとかあるかもしれないけれど」


「ないない」


彼は魅了の彼女のことをすでにあらかた調べていたらしい。


なんとも耳が早い。


いや、この場合手を回すのが早いと言った方が合っているのか?


セインはくっと笑ってコーヒーを店員に頼む。


この学園に通うにあたり、平民でもお嬢様言葉というなぞの隠されたルールがあり、まるでとっつきにくくなってしまったのではないかという不安を少し抱えていたところ……で。


よくわからない女がご登場。


季節外れの途中入学した子は一年なのに、三学年の有名どころをあっという間に侍らせる、という、誰が見ても異常とわかることをやってみせた。


なんのこっちゃと、二人の会話がわからないかもしれないが。


セインはコリティを見つめて貰ったコーヒーをこくりと飲む。


「それにしてもこの振る舞い。卒業後使わないのになんでやるんだろうな」


「授業でも専門職でもないと使わないと笑ってる先生がいたでしょ。それと同じよ」


彼も平民の知り合いなので、コーヒーを飲む姿に気品があったとしても、れっきとした平民。


隠されたり、実はな事実もない平民or平民の親から生まれたベイビーだ。


セイン様〜、なんて一部の子達から言われてサービスで貴公子みたいに振る舞ってあげるくらい、なお茶目なところがある。


バラを持って欲しいと言われたら、バラを口に咥えた時なんて平民の間で大笑いとサービス精神が凄い、という意見が二分。


コリティは勿論、大笑い派だった。


のちのち、いや、今でも思い出し笑い余裕だ。


脳内再生完璧。


なんなら、描きおこしていた人も居たから見せてもらうことだってできる。


コリティは本名なのだがちょっと貴族っぽい名前を気に入っていた。


と、まあ話が逸れたがセインとの会話の中でのモテモテな少女の周りの状態は異常だった。


彼らには当然婚約者が居たが、様子を見ながらも付近を【犯罪が行われている現場】と認識してからは触らずの状態。


本当に事件現場なのだ。


そちらを気付かれぬようにちらりと見たが、やはり魅了が濃い。


彼女単体に魅力があるという解釈は、みんな思ってないだろう。


セインはルーズリーフに記した報告書をこちらに見せる。


一般家庭なので綺麗な紙で書式のあるものなんてわざわざ買わない。


実に平民らしい報告書と言える。


ルーズリーフなので、ノートを適当に破っていて端が破れたままのギザギザ。


整えられてないので、ミリ単位の紙屑すら端に引っ付いている。


やはり相手は、どれだけ毅然と振る舞おうと自身と同じ平民っ子だ。


「これ、あの女の記録だ。勉強を適当にやりながらも赤点を回避するだけで済ませてる奴が観察したものだ」


「いるわねそんな人。下手したら留年するんだけれど、その人平気なのかしら」


「そのギリギリを、自慢するようなやつだ。気にするだけ無駄だ」


お調子者が面白いからと、貴族を引っ掻きまわす女が居るとなれば、赤点ギリギリで済ませて野次馬しに行くみたい。


留年したら、親と親族にボコボコでは済まないと思うんだが。


「貴族達はもう捕縛の用意はしているのかしらね。今年の思い出として永遠に語り継がれるわよ」


「おれも、同窓会の時に全員と捏ねくり回す予定だから、誰にも言ってない情報をその時披露する予定だぞ」


「ミーハーねぇー」


頼んでおいた、一番安いジュースを上品に飲む。


「いつ捕まるか賭けないか?」


「あ、あなたそれを言うためにきたのね?それで、大体知ってるから一人だけ勝つ気だからこそ、やるのね?ずるいわよそういうの」


「ふっ。平民の浅知恵と呼べ」


「浅知恵って自分で言うのはどうなの」


こういうところがみんなに好かれるのだ。


イタズラを仕掛けても許される愛される人がいるが、彼はそんな立ち位置。


コリティは彼女をまたチラッと見る。


「そうねぇ。私は一ヶ月後にするわ」


「へえ。なんでそう思った?」


セインは楽しそうに笑うコリティを見て、下を向く。


しかし、すぐにこちらを見ると顔を真面目にさせる。


「多分、貴族家の女達は男達よりも力関係を上にしたまま一生保ちたい。それだったら、いくら魅了を使われたとしても男達はずっと頭が上がらなくなるという構図になるわ?男達の家に話がまだ少ししか行き届いていないところを見ると、女達の家が暗躍してる理由がわかるかもしれない」


この世界、基本的に男尊女卑。


しかも、平民ではない貴族にはその傾向が今もある。


自分の身の保証を保つための生存戦略。


「コリティ。さすが、お見事と称賛してやろう」


「こんなの情報を知れる人たちなら簡単にわかるわよ。男達の親が情報を得にくいのはここが学園という特殊なところだからだし、女達の方が上手だから」


「だからといって、王家や上から数えていいくらいの高貴な家がやらないとは信じられないけどな?」


彼の言いたいことはわかるけど。


でも、貴族よりも、平民の方が知っているということがあるのは不思議じゃない。


現場には現場にしか理解できないことがあるという、典型的な現実。


「でも、あの女、破滅したいってわけじゃないだろ」


「そこはあなたが男であるから、わからない感覚なのよ。女だから全部わかるというわけじゃないけど。やはり高貴な男達にちやほやされるのは一度味わうと抜けられない禁断の蜜みたいなものよ?」


「む、おれは一途な派閥だからそんな女は嫌だ」


「私だって、お金を払って叶えられるんならやってもらいたいもの」


「……ふーーーーーん?」


初めて聞くふーんだったので、飲み終えたジュースを置き相手をみやる。


「その含んだ声はなぁに?あなただってハーレムしたいでしょ」


「おれをそこら辺に、いいや……あそこにいる、将来は一夫多妻を叶えたいと常日頃、女子の前で言って冷たい目を女子達に向けられるやつとは違う」


セインは一人、噴水脇にあるベンチで空を見上げている男の子を指す。


「具体的ねぇ。それ聞いたことあるわ?二組隣の男の子が気持ち悪いと言われていたのを聞いたわ。確かに嫌われるわね、その言い草」


「そうだよな。好きな女子にいいところを見せたいからって、その子をチラッチラ見ながらおれは将来モテるとアピールする自爆行為に、みんなに馬鹿やったなぁと思われてるやつと同列にされたくない」


思ってるらしい。


止めてあげろ。


男子の友情ってよくわからなくなる。


「むむ。そのコリティは結婚願望あるよな。実はおれもお前とおんなじぐらいあって」


魅了の話はいつ、この話にシフトしたのであろうか?


「あの、セイン。話が散らばってるわ」


「は?散らばってない。あんな女捕まって卒業するころにはみんなコロッと忘れてる。つまりおれにはお前くらい強い恋愛の話をしてるんであって」


「セイン……」


セインを見て、目をキョロキョロさせるコリティ。


「な、なんだ」


「もうすぐ休み時間が終わるから行くわ」


どうやらキョロキョロさせていたのは、時計をチラ見してたかららしい。


「……そうだな。おれは少し噴水について考えるから先に行け」


「噴水?わかったわ」


言われるがままに席を立つ彼女。


「セイン」


最後に声をかけられたので、上を見上げた男。


「卒業式の後に話があるなら、私は絶対に行くわ」


ふふ、と優しく笑うコリティの柔らかな声音に男子は耳を少し赤くして頷いた。






その後、一ヶ月と半月で魅了の例の少女は退学になった。


来年試験に受かれば、また入れるらしい。


そういうところは、彼女が平民でよかった部分だと思う。


貴族なら、後妻にさせたりして再度世間の目に晒すのを許されることは、なさそうだ。


ただし、黒歴史を知る存在があちこちに点在してることを妥協しながら、通えるかはかなり苦しい点だろう。








キッチンにあるへこんだ鍋が見える位置にテーブルがある部屋の中。


コリティとセインは家で今話題のことについて話し合っていた。


ここ最近、どうみても放逐された令嬢がここの地区に住み出したのだが。


「別に触らなかったらいいじゃない」


やけに気にする男に首を傾げるコリティは、平民だ。


「それが一番ならよかったんだがな」


暗い顔を浮かべる美男子は昨日鍋で街の同級生達と丘を滑っていたようなお茶目な男だ。


男用のコップを取り出して、お茶を出しながら聞き流す。


鍋は当然ボコボコになって全員母親達に頭を殴られていたけど。


セインはうまく立ち回ってゲンコツを回避する小狡いやつである。


「セインの心配事がよくわからないわ」


「その女にいくつか質問して強烈な違和感と嫌な予感をおれは感受、いや受信した」


「そうなの?」


「ああ!」


彼は珍しく声を荒げる。


「よく聞け、最近ここには令嬢が入荷しただろうが。令嬢にはいくつかのパターン、シリーズがある」


「まるで玩具のようよ」


セインはため息を吐いて面倒そうに髪をかきあげる。


半月前に腹に、インクで顔を書いた同一人物とは思えない。


「令嬢のじじぃ、いや、祖父についての会話がチラッとでてきたせいで長話になった。いいか?令嬢シリーズにはな」


話をまとめると【令嬢】を【溺愛】する【祖父】または【祖母】がいるらしい。


しかし、令嬢が生家で虐げられている間、なぜかそれを軽く見たり、耳に入ってなかったり手が出せなかったとほざく【身内】の話。


そのくせ、令嬢に転機が起こると今までのことを棚にあげて全方位に復讐、報復、仕返しを行うらしい。


薬指の輪をくるりとしながら語る。


それは放逐した先の、平民街に及ぶことも少なくないとか。


蔑む話はあるにはあるが、殆どの対応は特に親しくならないように未知の物体を遠巻きに眺めるのが、関の山な対応。


セインはなにを心配しているのかというと、今の自分たちを見捨てた扱いするかもしれない身内が令嬢にいることだ。


「だからおれはその令嬢の汲み取り式洗濯機みたいな変身パーツジジイ……祖父のことを聞いて手紙を送った」


彼にしては珍しい。


コリティと同じく触らないタイプなのに。


「手のひらドリルジジイが迎えにくるまで待ってたら、報復発射範囲に入るかもしれない。今までお前のことを愛していたのじゃ。お前のことを虐げた奴らにメにものみせてやるわい、とか言われたら詰むんだよ」


愛していたと言う割に生家で影も形も助けなかったやつが、そういうこと平気で言ってやりすぎるんだよと頭をぐしゃぐしゃする。


ちょっと、いやかなり考えすぎな気がしなくもないけど。


彼が手紙を送った半月後、令嬢の家で豪華な馬車を見た。


セインはドヤ顔でどうだという仕草をしていたので、首を振る。


「な。作ったやつ渡したんだよな」


「形のいいクッキーを言われた通り渡して、がんばってねと言っておいたけど」


指示されて、セインの言う通りにした。


「そうしておいたら平民潰すの免じてやめてやるかの流れになるんだよ」


男のいうことがよくわからなかったけど、ある日家に手紙が送られてきてやけに豪華な紋章の栞が同封されていた。


いつものようにコリティは彼に伝えると、安堵していたので眉を下げる。


「よくしてくれて、ありがとうだって」


「令嬢が平民生活に戸惑ってて、コミュニティに入れなかっただけで潰されるなんて、ごめんだからな」


祖父らしき相手の手紙もあって、礼として書いてあり金額の書かれた紙があった。


これは、ここに好きなだけ数字を書けといいながら渡されるアイテムだ。


すでに記入されていて、金額に驚く。


それを見せればセインはハッと馬鹿にしたように鼻で笑う。


「やっぱり手のひらドリルはクズだったか」


「なに?」


「あのな。あの令嬢の父親は入婿。母親が正当な血筋って言ってた。つまりあの祖父は愛しながらも正当な血筋を回収したんだ。多分どっかに嫁がせるな」


「穿った見方なような……」


愛しているから迎えにきたのかも。


男は首を振る。


「人は一つだけの気持ちだけじゃなくていくつもある。確かに溺愛もあるんだろうが、貴族としても孫を使いたい気持ちもあるんだろうな。この金は口封じだ。ここにいた時のことは悪く言うなということや言うな、語るな、思い出すな、忘れろって意味もあるかもしれない」


「セインってアホなときがあるのになんでたまに天才になるの?」


「おれのことどう思ってるのか、説明する必要あった?」


平民の二人は渡されたお金の紙を見ながら、特になにか思い出す記憶もない令嬢のことなど言われずとも。


「つまるところ、この金で鍋を買える。な?」


言えるような会話すらなかったと、困ったように二人掛けのソファに座りながら締め括った。

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セインの奇行の方が気になる…。 腹に顔描いてヘソ踊りとか、鍋でソリ遊びかリージュごっこやって怒られるとか…
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