回帰 1
まさに一気に動き出したという感覚であった。
那須幸二はホテルの医師の称号を持つ人物を呼び寄せて客室でその人物に言われたものを用意するとじっと手当を受ける一色颯希を見つめる妻越ハルヒの隣に立った。
その反対側には有馬伊織が立っている。
海埜みやびと柄本聖也も共にとついて来ようとしていたが、ハルヒが頭を下げて大急ぎで頼んだことをして欲しいと告げたのである。
「一刻を争うことなんだ」
颯希の状態については必ず知らせる
ハルヒはそう告げて、二人には別行動を頼んだのである。
海埜みやびはハルヒの言葉に
「これは…AI政治システムを破壊することに通じることですか?」
と告げた。
「それともただ単にあの黒崎という女性を助けるためだけのものですか?」
言外に己は彼女よりも颯希の方が心配だと告げているのだ。
ハルヒは彼女と同意の表情を浮かべる柄本聖也を見ると
「両方だ」
究極言ってしまえば
「AI政治システムを破壊しない限り彼女を助けられない」
と告げた。
「AI政治システムの破壊は俺の望みだ」
もし君たちが拒否をしたとしても俺はやる
「ただ君たちが望んでくれているのなら…いま手を貸してほしい」
海埜みやびは静かに笑むと
「いま心が決まりました」
世界が
世界の人々が
「AI政治システムの未来を望んでいても私は破壊します」
と告げた。
「ただの夢ではなく」
大切な友達をあんな理由で生死を彷徨わせて
「あの男が特別になる世界ならば潰れればいい」
…頂点が一つでもある時点で平等ではない…
彼女は柄本聖也を見ると
「一緒に手伝ってください」
貴方が望んでいなくても
「私とあの地下の書籍を失いたくなければ」
と告げた。
柄本聖也は笑むと
「海埜さんとあの本たちを永遠に手に入れられるなら」
手を貸さないわけにはいかないだろ
と彼女の肩を軽く叩いた。
「急ごう」
二人は足を踏み出した。
ハルヒは安堵の息を吐きだすと那須家へと急いだのである。
黛和斗が動き出す前に。
黒崎暁が子供と共に耐えられている間に。
全ての決着を付けなければならない。




