急転直下 2
颯希は5月末にあった事件を切欠に3人の親友を作ることができた。
何処の高校も。
何処の中学も。
いや、何処の小学校も。
休憩時間であっても誰かと雑談するということがなかった。
学校も職場と同じでただレベリングをするための場所だったからである。
他人と何かをすることもなければその必要性もなかった。
だから、ただ自分のレベリングのことだけを考えていれば良かったのだ。
が、颯希は名古屋高校の2階にある2年B組の教室に入ると後ろの隅で座っている海埜みやびに声をかけた。
「おはよう」
それに海埜みやびも手を挙げると
「おはよう」
と返した。
颯希の後ろにもう一人有馬伊織が姿を見せると
「おー、おっはー」
と手を挙げて颯希に続いて教室に入った。
挨拶の声が響き今までそんなことに興味すら持っていなかった他の生徒もチラチラと視線を向け始めていた。
二人は海埜みやびの前と横に座り、少し遅れてやってきた柄本聖也にも挨拶を送った。
柄本聖也も「早いな3人」と言いながら
「おはよう」
と挨拶をして彼らの側に座った。
これがあの事件から後の教室の風景であった。
明日は土曜日。
高校は実習と言う形になる。
そのことで海埜みやびは颯希を見ると
「ねえ、明日の土曜日に前に言っていた一色さんの猫ちゃんに会いたいんだけど、どうかな?」
と告げた。
颯希はそれに
「んー、良いと思うけど」
猫くん、いつもフラ~といなくなるから
「今日言っておく」
と告げた。
「12歳のきれかわな猫くんだよ」
有馬伊織は「12歳か」と笑みを浮かべると
「子供だな」
と呟いた。
颯希は「一応ね」と答えた。
4人は授業が始まるとタブレットを立ち上げて講義の動画を見始めた。
その時には流石に誰も話をせずに授業に集中することになるのである。
一応、TPOは弁えている4人であった。
同じころ。
颯希から猫呼ばわりをされている妻越ハルヒは那須幸二の元に姿を見せていた。
彼の元に旧AIシステムのアクセスボードがあるからである。
そこから九州の区画を運用する5人と連絡を取ることができるからである。
ハルヒはその中でも商業関係に優れている田中真二と機動隊関係を運用している波多野大気の二人に
「恐らく近いうちに西日本のAI政治システムを破壊する」
その時の助力を頼む
と告げていたのである。
黒崎零里の末裔である黒崎暁を今はうまく匿っている。
だが、AI政治システムの力を侮ることはできない。
それに禁忌である『AI政治システムに対する危険がない人間』への襲撃のストッパーが外されていないと言えど『ロボットの社会機構への組み込み』と『ロボットに指令を与えて動かす』ことは黛の末裔はもうできるのだ。
那須邸宅の地下にあるアクセスボードで指示を出したハルヒに那須幸二は
「近い内に行動を?」
もっと人を集めてからだと思っていたけれど
と告げた。
ハルヒはそれに肩越しに振り返り
「確かに人が多ければ多いほど良い」
だが
「黛和斗が悠長にこちらの事情を組んで待ってくれる可能性は低い」
と告げた。
「AI政治システムの破壊は…ロボットの動きをある程度封じることができるようになった時点で仕掛けないと失敗する」
それだけ厳しいことなんだ
「西日本だけと言えど世界を変えるんだ」
那須幸二はハルヒを見下ろし固唾を飲み込んだ。
確かにそうだ。
相手が自分の思い通りに動いてくれるなんてことはあり得ない。




